GLN町井正路訳「ファウスト」

天上の序言

 天帝、天軍、後ろにメフィストフェレス、三人の天使前に進み現わる。
 
ラファエル
 天つ日は友なる星の打混り、
 共に競歌を謳いつゝ、
 定めし旅路勇ましく、
 おどろおどろと進み行く、
 天つ使の誰も彼も、
 威力知り得ぬ天つ日を、
 仰げばいつか力つく、
 嗚呼霊妙比類なき、
 神の御業の天体の、
 今も昔も渝(かわ)らざる、
 其の光りこそ尊けれ。
 
ガブリエル
 例えも知らぬ速さにて、
 嗚呼荘厳の台地は廻る、
 光輝く昼の楽園は、
 ぬば玉の怖ろしの夜となり、
 海洋(わだつみ)は岩の根に狂いて、
 大波(なみ)澎湃(さわ)ぎ水泡(みなわ)起つ、
 浪と巌とは又更に、
 速に台地の旋転に伴い廻る。
 
ミカエル
 暴風狂雨競いては、
 海より陸に、陸よりまた海に、
 咆哮(ほえ)りて荒ぶ、
 おどろおどろと鳴る神の、
 路に閃く荒廃の、
 光は如何に激しくも、
 神よいましの使の余等には、
 静に動く天つ日ぞ尊けれ。
 
三人にて
 誰もかも、
 何とは知らぬ天つ日を、
 仰げばいつか力つく、
 測り得られぬ尊厳の、
 今も昔に変わりなき、
 其の神業ぞ尊けれ。

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