亡き友の、霊魂(たま)現はれつ、 ありし世の、その面影を、 おぼろげに、我にぞしめす、 我は夫(そ)を、ヒシと捉へむ。 其の往時(むかし)、思ひぞ出づる、 幻影(まぼろし)も、ゆかしや胸裡(むね)に、 消えはせて、弥群れ集ふ、 いと深き、細霧(さぎり)のなかを、 疾く出でゝ、汝(な)が領(もの)統(す)べよ。 立ちこむる、霊風清し、 我が胸の、血汐若やぎ、 いや躍る、心うれしさ。 過ぎし世を、霊魂(みたま)は語る、 睦ましく、交らひにける、 青春の、楽しき壮時(むかし)。 今はたゞ、朦朧(おぼろ)げに見る、 往時(そのかみ)の、めでたき姿。 惨(いた)ましく、また憂(う)かりける、 初恋の、ふかき思ひ出。 人生(ひとのよ)の、迷惑(まどひ)の宮に、 好運の、犠牲(にえ)とぞなりて、 我(あ)を棄てし、浅ましの女(ひと)、 あゝ、失恋の心の苦悶(なやみ)、 それもたゞ、残る口碑か。 我が詩(うた)に、情意(こゝろ)をやりし、 友は見ず、我が爾後(のち)の詩(うた)。 あゝ、当年(むかし)我が詩(うた)を愛でぬる、 友等(ともどち)は、はやくも逝きぬ。 面(おも)知らぬ、外国人の、 我が詩(うた)を、愛で唱ふ時、 人々の、称賛言(たゝえこと)きく。 我が胸の、いや悲しさよ。 往時(むかし)我が、詩(うた)をよろこび、 迎へぬる、親しき友の、 残れるも、無きにあらねど、 夫等さへ、今は、西、東。 凝る胸の、憶ひは深し、 いでや我、尊(たか)く静けき、 霊界の、団居(まどひ)に入りて、 我が友の、辺りに行かん。 唇辺(くちのへ)をさまよひめぐる、 我が詩は、彼のエオリヤの、 琴のごと、調とゝのはず。 いや落つる、涙の雨に、 心消え、身も戦慄(わなな)かる。 己が手に、いま持てるもの、 早や去りて、彼方にほの見え、 失せにしもの、今こゝにあり。 |
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