GLN町井正路訳「ファウスト」

「ファウスト」解題

(四)耶蘇新教派の神学者ヨハンガストは、一五四八年に其の談話集の第三版を 出したが、其の中に自らファウストに出会った事実を記して居る。
 
 自分はバジルに於ける某学校で彼と会食した、彼はそれを如何にして得たかは知る 由無かったが、我が国では見る能わざる種々(いろいろ)な鳥類を料理させて御馳走 してくれた、又彼は一匹の犬と、一頭の馬とを従え、如何なる事でも自己の命の侭に 為さしめ得つゝあった、自分が思うにそれ等は家畜に化身した妖怪悪魔の類であろう、 又件の犬が従僕となって炊事を為す処を見た者さえあったと云う、で彼は遂に悪魔の 絞殺する処となって、悲惨なる最期を遂げたのであるが、其の屍は上向きに 置かれてあったのだが、五度まで俯伏(うつぶし)になったとのこと、これ主たる 神が、吾人をしてサタンの奴僕たらざらしめんが為めの誡(いましめ)に外なら ないのである。

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