23a 哲学のすすめ[哲学と科学は対立するか]
 
〈哲学と科学は補い合う〉
 
△「哲学か科学か」と云う問い
 哲学と科学を相対立するものと見る考えは、誤りです。この誤りは、両者の本質を十
分に把握していないからです。
 哲学の与えるものは価値判断の原理であり、科学の与えるものは事実についての知識
であることをしっかり理解すれば、両者が相対立するものではなく、反対に両者は相補
うべきものです。従って両者のうち何れを欠いても、我々は具体的にとのように行為し
てよいのか分からなくなります。
 
△哲学が科学と対立するとき
 哲学と科学が対立するものと考えるのは、哲学がその本来の領域を越えようとしたり、
また科学が自分を万能であると過信することです。
 近世になって、諸科学が哲学から独立して行ったことは前述しましたが、それ以前の
哲学は、価値の問題と事実の問題とが意識的に分けられておらず、そのため哲学は事実
の問題についても発言する権利があると考えていたからです。
 例えば当時の哲学は「自然の奥には神の力がある」として、その奥に神の力が存する
なら、自然もまた価値高いものであるとの見方が其処に含まれていました。このように
価値の問題と事実の問題とが区別されていなかったので、哲学は事実についても判断を
下し得ると考え、哲学と科学とは対立しました。
 一方科学は、単に事実が如何にあるか、と云う知識の本質的性格をはっきり自覚し、
成功したため、哲学に不信の目を向けて続々と独立しました。
 このことによって、価値と事実の問題が全く異なるものであると判ったので、哲学の
領域は価値判断であると云うことをはっきり意識することで、互いが対立することはあ
りません。
 
△科学が哲学と対立するとき
 科学が驚くべき発展を遂げている現在、科学が自己の領域を越えた行為をしようとす
れば、哲学と対立します。
 科学によって一切を割り切ろうとすると、我々は、人間自らが作り出した科学によっ
て支配されたり、害悪をもたらされたりします。科学を作り出した人間は、あくまでも
科学を自由に用いる、科学の主人なのです。
 そして我々は、科学によっては解決出来ない価値の問題が存すること、そしてまた哲
学も必要であるということを十分に理解しなければなりません。

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