神様の戸籍調べ
 
二十三 蛤貝比売ウムギヒメと蚶貝比売キサガヒヒメ
 
 ウムギと云ふのは、蛤ハマグリの総称で、キサガヒは蚶貝類キサガヒルイを云ふのである。こ
の貝類が神様仲間に入ると云うふのは、昔の神話にあるばかりでなく、今も神様に奉祠
してあるからである。即ち因幡国八頭郡大江村オホエムラの大江神社がそれである。
 かの大国主命オホクニヌシノミコが非常に好男子の上に、御心慈悲深く入らせられたに反し、兄
八十神ヤソカミ達は、性質ねじれてゐたから八上比売ヤカミヒメは、八十神を厭って、大国主命と
結婚せられた。そこで八十神が赤い猪がゐると言って、大国主命を欺いて焼石を抱かせ
たから、堪ったものではない、大国主命は焼死をせられた。
 
 御母神が是を知って、非常に悲しみなされ、天に上って神産霊神カミムスビノカミ様に御願し
て救って下さい、助けて下さいと御頼になったので、天の神も、兼々大国主命は、好い
神様であるばかりでなく、日本の悪神を平定するには、この神の力を借らねばならぬと
思し召してゐたから、蛤貝比売と蚶貝比売と云ふ二人の女医を御差遣なされた。
 神勅を蒙れる二人の女医者は、すぐに大国主命の処へ出かけ、先づ蚶貝比売は蚶貝キサ
ガヒの殻貝カヒガラを砕きて焼き、即ち貝粉を作ると、蛤貝比売は蛤貝ウムギの水を取って、
この蚶貝粉をこね、大国主命の全身に塗ると、流石死せるが如き大国主命も、忽ち癒え
て元の通りの立派な美丈夫となられた、その功蹟によって、蛤貝比売と蚶貝比売とは神
様の名を賜ったのである。
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