神様の戸籍調べ
三 軍神大久米命オホクメノミコト
この神は軍人の神様で又、非常に仲媒ナカウドが上手であった。
天津久米命アマツクメノミコトの御末裔マツエイであって、神武天皇の東征に従って、各地に転戦し
て度々抜群の大功を顕はし、殊に紀州方面には非常なる奮戦をせられたが、然しその戦
功中特に華々しかったのは、大和の兄宇迦志エウカシ征伐の時であった。
この宇迦志には二人の兄弟があって共に剛勇無比、大和河内近傍を平呑ヘイドンして、勢
並ぶものない豪族であったので、皇軍は軍の法律により、極めて鄭重なる使者、八咫烏
ヤタガラスを送りて、皇軍東征の大旨を告げ、速に軍門に降り、国土を献上するが、日本住
民の本分である由を御懇諭ゴコンユになると、弟宇迦志オトウカシは早速その是なることを認め、
承知して、皇軍に従ふべきを悟ったが、兄宇迦志エウカシは頑迷にしてこの勅使に対し、鏑
矢カブラヤを鳴り響かし追ひ返して、反抗の気勢を示して、軍兵を募って見たが、仲々兵が
集まらないので兄宇迦志は茲に最も忌むべき大悪計を廻らした。
即ちそれは詐って降参し、盛んなる皇軍の歓迎会を促さんと、室に踏み入るや直ちに
穽機オトシに陥れることであったが、逆に自らその穽機オトシに堕ちて敗れてしまった。
この戦いで凱歌を挙げた大久米命はその後、方々に転戦せられたが、遂に中国を統一
せられた時、天皇は大和の橿原カシハラの宮に天皇の御位に即かせられて、皇后をお求めに
なられた。大久米命がある日、大和の御宮の守護の隙に、天皇の命をうけて、方々を索
して見ると一人の美しい姫がゐたので、よく見ると、今迄こんな目丸メダマの大きな恐ろ
しい顔をした方を見たことのないので、その姫は驚ろいて、
「マァ驚ろいた大眼玉、鷹か千鳥か鶺鴒セキレイか、ホンニ鋭い眼玉、なぜにあんなに円
いか」
と御歌ひになったので、大久米命もその面白い歌と、美しい声に思はず、
「円い鋭いこの眼玉、少女ないかと彼方此方に、鋭い眼玉で捜すのよ」
と御返して、成程この姫は姿も御心も美しいと感心したのであった。この姫は大物主神
オホモノヌシノカミの御姫様で、伊須気余理姫イスキヨリヒメと云ふ方であった。
天皇は大久米命を案内にして、姫の住むと云ふ大和の高佐士野タカサシノに御出になって、
春の花咲く野辺にあちこちと、姫はどれと御索しになりましたが、丁度其処に七人の同
じやうな美しく同じやうな盛装をして少女ヲトメが、ソレ菫スミレ、ソレ茅花ツバナ、ソレ蒲公
英タンポポと遊び楽むで胡蝶のやうで、何れが姫やら解らない、この中には姫も居られた
がどうしても定め兼ねて、大久米命は歌で以て、
「大和なる、高佐士野ゆく七人の、美しき、少女の中の誰か得む」
と申し上げると、天皇は微笑ホホエミながら、同じ歌にて、
「先立てる、美しき少女ヲトメをば得む」
と御仰せになったから、大久米命がその少女にこの旨を告げると、実にこれこそ姫であ
ったから、喜んで御承諾になって、三人の皇子を御生になった。即ちこの皇后の仲媒ナカウ
ドは大久米命であったのである。大久米命などは武に秀でて武事一片に偏せず、智あり
勇あり気あり情ある方であった。よって日本武士の神とするのも無理はない。
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