1401a 範例祝詞[宣命]
[年号を和銅と改めたまふ時の宣命] (『続日本紀』巻第四、元明天皇)
和銅元年(七〇八)春正月乙巳キノトミ(十一日)、武蔵国秩父郡より和銅を献ず。
詔して曰はく、
現神アキツミカミト御宇倭根子天皇詔旨勅命乎 親王 諸王 諸臣 百官人等 天下公民衆聞宣
モロモロキコシメサヘトノリタマフ
高天原与利天降坐志アモリマシシ 天皇世乎スメラガミヨヲ始而 中今爾ナカイマニ至麻弖爾 天皇御世御
世 天豆日嗣高御座爾坐而 治賜慈賜来クル 食国天下之業止奈母 随神所念行佐久止詔
命乎 衆聞宣
如是カク 治賜慈賜来天豆日嗣之業 今皇朕御世爾イマスメラワガミヨニ当而坐者アタリテマセバ 天地之
心乎労彌重彌イトホシミイカシミ辱美恐美カタジケナミカシコミ坐爾イマスニ 聞看キコシメシ食国中之ヲスクニノウチノ 東
方ヒムガシノカタ武蔵国爾ムサシノクニニ 自然作成オノヅカラナレル和銅ニギアカガネ出在止イデタリト奏而献焉
マヲシテタテマツレリ
此物者コノモノハ 天坐神アメニマスカミ地坐祇乃クニニマスカミノ相宇豆奈比奉アヒウヅナヒマツリ福波倍奉サキハヘマツル
事爾依而コトニヨリテ 顕久ウツシク出多留イデタル宝爾在羅之止奈母アルラシトナモ 神随カムナガラ所念行須
是以天地之神乃顕奉アラハシマツレル瑞宝爾シルシノタカラニ依而 御世年号ミヨノナ改賜アラタメタマヒ換賜波久止
カヘタマハクト詔命乎ノリタマフオホミコトヲ 衆聞宣
故カレ改慶雲五年而ケイウンノイツトセヲアラタメテ和銅元年為而ワドウノハジメノトシトシテ 御世年号止定賜サダメ
タマフ
是以天下爾慶命詔久ヨロコビノオホミコトノリタマハク 冠位カガフリクライ上可賜アゲタマフベキ人人ヒトビトヲ治賜
天下に大赦し、和銅元年正月十一日昧爽アケボノより以前、大辟の罪已下、罪軽重と无く、
既発覚、未発覚、撃囚見徒、咸コトゴトクニこれを赦除せよ。其の八虐を犯せる、人を故殺せ
る、人を謀殺せる、已に殺せる、賊盗、常赦に免ユルさざる所の者は、赦す限に在らざれ。
山沢に亡命し、軍器を挟蔵して、百日首マヲさざるを、罪を復すること初めの如くせよ。
高年の百姓百歳以上には、籾三斛コクを、九十以上には二斛、八十以上には一斛を賜へ。
孝子・順孫・義夫・節婦は、其門閭に表して、優復三年とせよ。鰥寡クワンクワ煢(心扁+旬
+子)独ケイドクの自ミヅカら存すること能はざる者には、籾一斛を賜へ。百官人等に禄を賜
ふこと各差シナあれ。諸国の国・郡司には位一階を加へよ。其の正六位以上は、進むる限
に在らざれ。武蔵国の今年の庸チカラシロ、当郡ソノコホリノ(秩父郡)調庸ミツギチカラシロ免ユルしたま
ふと詔天皇命乎、衆聞宣。
[元正天皇御位を聖武天皇に禅ユヅりたまふ時の宣命]
(『続日本紀』巻第九、聖武天皇)
神亀元年(七二四)二月甲午キノエウマ(四日)、(聖武天皇、元正天皇より)禅ユヅリ
を受けて大極殿に即位したまふ。天下に大赦し、詔ミコトノリして曰ノタマはく、
現神アキツミカミト大八洲オホヤシマグニ所知シロシメス倭根子天皇詔旨止勅大命乎 諸王 諸臣 百官人
等 天下公民衆聞食宣モロモロキコシメサヘトノリタマフ
高天原爾神留坐カムヅマリマス皇親スメラガムツ神魯岐神漏美命カムロギカムロミノミコトノ 吾孫将知アガミマノ
シラサム食国天下止 与佐斯奉志ヨサシマツリシ麻爾麻爾 高天原爾事波自米而コトハジメテ 四方ヨモノ食
国 天下乃政乎マツリゴトヲ 彌高彌広爾イヤタカイヤヒロニ 天日嗣止アマツヒツギト高御座爾坐而 大八
島国所知倭根子天皇乃大命爾坐詔久マセノリタマハク 此食国天下者 掛畏岐カケマクモカシコキ藤原宮爾
天下所知シロシメシシ 美麻斯乃ミマシノ父止坐マス 天皇(文武天皇)乃 美麻斯爾賜志 天下之
業止 詔大命乎ノリタマフオホミコトヲ 聞食キコシメシ恐美カシコミ取賜ウケタマハリ 懼坐事乎オソリマスコトヲ 衆聞
食宣
可久賜時爾 美麻斯親王之ミコノ齢乃ヨハヒノ弱爾ワカキニ 荷重波ニオモキハ不堪自加止タヘジカト 所念
坐而オモホシマシテ 皇祖母坐志志オホミオヤトマシシ 掛畏岐我皇ワガオホキミ天皇(元明天皇)爾授奉岐
サヅケマツリキ
依此而コレニヨリテ是コノ平城大宮爾ナラノオホミヤニ 現御神止坐而 大八島国所知而 霊亀元年爾レイキ
ノハジメノトシニ 此乃天日嗣高御座之業食国天下之政乎 朕アレ(元正天皇)爾授賜譲賜而 教
賜詔賜都良久ヲシヘタマヒノリタマヒツラク 掛畏カケマクモカシコキ淡海アフミノ大津宮オホツノミヤニ御宇アメノシタシロシメシシ倭
根子天皇(天智天皇)乃 万世爾ヨロズヨニ不改カハルマジキ常典止ツネノノリト 立賜敷賜閉留随法
ノリノマニマニ 後遂者ノチツヒニハ 我子爾アガコニ佐太加爾サダカニ牟倶佐加爾ムクサカニ 無過事アヤマツコトナク
授賜止 負賜オホセタマヒ詔賜比志爾ノリタマヒシニ依弖ヨリテ 今授賜牟止所念坐間爾オモホシマスアヒダニ 去
年コゾノ九月ナガツキ 天地賜アメツチノタマヘル大瑞物オホキシルシノモノ顕来理アラハレキタリ 又四方ヨモノ食国乃年
実豊爾トシユタカニ 牟倶佐加爾得在止エタリト見賜而ミタマヒテ 随神母カムナガラモ所念行爾オモホシメスニ 于
都斯久母ウツクシモ 皇朕賀スメラワガ御世当ミヨニアタリテ 顕見留物爾者不在アラハルルモノニハアラジ 今神亀
二字ジムキノフタモジヲ御世乃年名止ナト定弖 改養老八年ヤウラウノヤトセヲアラタメテ 為神亀元年而ジムキノ
ハジメノトシトシテ 天日嗣高御座食国天下之業乎 吾子ワガコ美麻斯王爾ミマシミコニ 授賜譲賜止詔
ノリタマフ天皇大命乎スメラガオホミコトヲ 頂受賜イタダキウケタマハリ恐美持而カシコミモチテ辞啓者イナビマヲサバ 天
皇大命恐被賜カシコミウケタマハリ仕奉者ツカヘマツラバ 拙母劣而ツタナクモヲヂナクテ無所知シレルコトナシ
進母不知ススムモシラニ 退母不知爾シリゾクモシラニ 天地之心母労久イトホシク重イカシク百官之情母モモノツカサ
ノココロモ 辱愧美奈母カタジケナミハヅカシミナモ 随神所念座カムナガラモオモホシマス
故カレ親王等始而ミコタチヲハジメテ王臣汝等オホキミオミイマシタチ 清支明支正支直支心以ココロヲモチテ 皇朝
スメラガミカドヲ穴奈比アナナヒ扶奉而タスケマツリテ 天下公民乎アメノシタノオホミタカラヲ 奏賜止マヲシタマヘト詔命
ノリタマフオホミコトヲ 衆聞食宣
辞別コトワキテ詔久ノリタマハク 遠皇祖トホスメラギノ御世始而ミヨヲハジメテ 中今爾ナカイマニ至麻弖イタルマデ
天日嗣止高御座爾坐而 此食国天下乎撫賜慈賜波久波メグミタマハクハ 時時状状爾トキドキサマザマ
ニ従而シタガヒテ 治賜慈賜来業止クルワザト 随神所念行須オモホシメス 是以ココヲモテ宜天下乎マヅアメノ
シタヲ 慈賜治賜久ヲサメタマハク 天下に大赦せよ。内外文武の職事シキジ、及マタ五位已上にして
父の後為タる者には、勲一級を授けよ。高年百歳已上には、穀一石五斗を、九十已上には
一石を、八十已上、并に煢(心扁+旬+子)独ケイドク自ら存すること能はざる者には五斗
を賜へ。孝子・順孫・義夫・節婦は、咸コトゴトクに門閭サトノカドに表して、身を終るまで事
勿ナカらしめよ。天下の兵士は、今年の調の半ナカバを減らし、京畿は悉くに免ユルせ。又官
官ツカサに仕へ奉マツる韓人部カラヒトドモ一二人爾ヒトリフタリニ、其負ひて仕へ奉るべき姓名カバネナ賜
へ。又百官官人モモツカサノツカサビト、及京下ミサトの僧尼ホフシアマに大御手物オホミテツモノ取らし賜ひ治賜
久止詔天皇御命ノリタマフスメラガオホミコトヲ 衆聞食宣。
[年号を天平と改め給へる時の宣命] (『続日本紀』巻第十、聖武天皇)
天平元年八月癸亥ミヅノトイ(五日)、天皇大極殿に御オハシマし、詔して曰ノタマはく、
現神アキツミカミト御宇アメノシタシロシメス倭根子天皇詔旨止勅命乎 親王等諸王等諸臣等百官人等天下
公民衆聞宣
高天原由タカマノハラユ天降坐之アモリマシシ 天皇御世始而スメラガミヨヲハジメテ 許能コノ天官御座坐而タカ
ミクラニマシテ 天地八方アメツチヤモヲ調賜事者トトノヘタマフコトハ 聖君止ヒジリノキミト坐而 賢臣カシコキオミ供奉
ツカヘマツリ 天下平久タヒラケク 百官モモノツカサ安久為而之ヤスクシテシ 天地大瑞者アメツチノオホキシルシハ顕来止
奈母アラハレクルトナモ 随神カムナガラ所念行佐久止オモホシメサクト 詔命乎ノリタマフオホミコトヲ衆聞宣モロモロキコシメサ
ヘトノリタマフ
如是詔者カクノリタマフハ 大命坐オホミコトニマセ 皇朕スメラワガ御世当而者ミヨニアタリテハ 皇止坐朕母スメラト
マスワレモ 聞持流キキタモテル事乏久コトトモシク 見持留ミタモテル行少美オコナヒスクナミ 朕臣為アガオミトシテ供奉
人等母ツカヘマツルヒトドモモ 一二乎ヒトツフタツヲ漏落事母モラシオトスコトモ在牟加止アラムカト 辱美愧美カタジケ
ナミハヅカシミ所思坐而オモホシマシテ 我皇ワガオホキミ太上天皇オホキスメラミコトノ(元正天皇)大前爾オホマヘニ
恐古士物カシコジモノ進退シシマヒ匍匐廻保利ハラバヒモトホリ 白賜比マヲシタマヒ受被賜久者ウケタマハラクハ 卿
等乃マヘツギミタチノ問来トヒコム政乎者マツリゴトヲバ 加久耶カクヤ答賜加久耶コタヘタマハムカクヤ答賜止コタヘ
タマハムト白賜比マヲシタマヒ白賜マヲシタマフ官爾耶ツカサニヤ治賜止ヲサメタマハムト白賜倍婆マヲシタマヘバ 教賜ヲシヘ
タマヒ於毛夫気賜オモブケタマヒ 答賜宣賜随爾コタヘタマヒノリタマフマニマニ 此乃食国天下之政乎 行賜
オコナヒタマヒ敷賜乍シキタマヒツツ仕奉賜間爾ツカヘマツリタマフアヒダニ 京職大夫ミサトヅカサノカミ従三位ヒロキミツノクライ
藤原朝臣フヂハラノアソミ麻呂等伊マロライ 負図フミオヘル亀一頭カメヒトツ献止タテマツラント奏賜不止マヲシタマフト所
聞行キコシメシ 警賜オドロキタマヒ恠賜アヤシミタマヒ所見行ミソナハシ歓賜ヨロコビタマヒ嘉賜弖メデタマヒテ 所思行
久者オモホシメザクハ 宇都斯久母ウツシクモ皇朕スメラワガ政乃マツリゴトノ所致物爾イタセルモノニ在米耶アラメヤ
此者コハ太上天皇厚支広支徳乎ミメグミヲ蒙而カガフリテ高支貴支行爾オコナヒニ依而ヨリテ顕来アラハレケル大
瑞物曽止オホキシルシノモノゾト詔命乎ノリタマフオホミコトヲ衆聞宣
辞別詔久コトワキテノリタマハク 此大瑞物者 天坐神アメニマスカミ地坐神乃クニニマスカミノ相宇豆奈比奉アヒ
ウヅナヒマツリ福奉事爾サキハヘマツルコトニ依而ヨリテ顕久ウツシク出多留イデタル瑞爾シルシニ在羅之止奈母アルラシトナモ
神随所思行須カムナ゙ラオモホシメス
是以ココヲモテ天地之神乃顕奉留アラハシマツレル貴随以而タフトキシルシニヨリテ御世年号ミヨノナヲ改賜換賜アラタメ
タマヒカヘタマフ
是以改神亀六年ジムキノムトセヲアラタメテ 為天平元年而テムピャウノハジメノトシトシテ 大赦天下アメノシタヒロクツミ
ヲユルシ 百官主典已上人等モモノツカサノフミヒトヨリカミツカタノヒトドモ 冠位カガフリクライ一階ヒトシナ上賜事乎アゲ
タマフコトヲ始ハジメ 一二慶ヒトツフタツノヨロコビノ命詔賜オホミコトノリタマヒ恵賜行賜止詔天皇命乎 衆聞食宣
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