21b 万葉歌、萌芽期から終焉までの秀歌百五十選
[第三期/万葉歌完成の時代]
太宰帥ダザイノソチ大伴卿オホトモノマヘツキミ、酒を讃ホむる歌十三首
338 験シルシなきものを思はずば一杯ヒトツキの 濁れる酒を飲むべくあるらし(巻三・雑歌)
341 賢サカしみと物言ふよりは酒飲みて 酔エひ泣きするし優りたるらし
343 なかなかに人とあらずは酒壷サカツボに なりにてしかも酒にしみなむ
348 この世にし楽しくあらば来コむ世には 虫に鳥にも我はなりなむ
神亀ジンキ五年戊辰ボシン、太宰帥大伴卿、故人を思シノひ恋ふる歌
438 愛ウツクしき人のまきてししきたへの 我が手枕タマクラをまく人あらめや
452 妹として二人作りし我が山斎シマは 小高く築くなりにけるかも
793 世の中は空しきものと知る時し いよよますます悲しかりけり(巻五・雑歌)
冬十二月、太宰帥大伴卿の京に上る時に、娘子ヲトメの作る歌二首
965 凡オホならばかもかもせむを恐カシコみと 振りたき袖を忍びてあるかも(巻六・雑歌)
藤原宇合ウマカヒ大夫マヘツキミ、選任して京に上る時に、常陸ヒタチ娘子の贈る歌
521 庭に立つ麻手アサデ刈り干し布さらす 東女アヅマヲトメを忘れたまふな(巻四・相聞)
筑前守ツクシノミチノクチノカミ山上臣憶良ヤマノウヘノオミオクラの挽歌
797 悔しかもかく知らませばあをによし 国内クヌチことごと見せましものを(巻五・雑歌)
山上憶良の子等を思ふ歌一首(の反歌)
803 銀シロカネも金クガネも玉も何せむに 優れる宝子にしかめやも(巻五・雑歌)
山上憶良、宴を羅マカる歌一首
337 憶良らは今は羅らむ子泣くらむ それその母も我ワを待つらむそ(巻三・雑歌)
893 世の中を厭ウしとやさしと思へども 飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(巻五・雑歌)
山上憶良、沈痾ヂンアの時の歌一首
978 士ヲノコやも空しくあるべき万代に 語り継ぐべき名は立てずして(巻六・雑歌)
山部宿禰ヤマノベノスクネ赤人、富士の山を望む歌一首(の反歌)
318 田子タゴの浦ゆうち出でて見ればま白にそ 富士の高嶺タカネに雪は降りける
(巻三・雑歌)
919 若の浦に潮満ち来れば潟カタをなみ 葦辺をさして鶴鳴き渡る(巻六・雑歌)
924 み吉野の象山キサヤマのまの木末コヌレには ここだも騒く鳥の声かも(巻六・雑歌)
1425 あしひきの山桜花日並ヒナべて かく咲きたらばいた恋ひめやも(巻八・春の雑歌)
満誓沙弥マンゼイサミの月の歌一首
393 見えずとも誰タレ恋ひざらめ山のはに いさよふ月を外に見てしか(巻三・雑歌)
筑波嶺に登りて耀(女扁の耀)歌会カガヒを為スる日に作る歌一首(の反歌)
(高橋虫麻呂歌集に出づ)
1760 男神ヒコカミに雲立ち登りしぐれ降り 濡れ通るとも我帰らめや(巻九・雑歌)
安倍アヘノ女郎の歌二首
506 我が背子セコは物な思ひそ事しあらば 火にも水にも我がなけなくに(巻四・相聞)
紀キノ女郎の怨恨ウラミの歌
643 世の中の女ヲミナにしあらば我が渡る 痛背アナセの川を渡りかねめや(巻四・相聞)
紀女郎、大伴宿禰家持に贈る歌
762 神さぶといなにはあらずはたやはた かくして後ノチにさぶしけむかも(巻四・相聞)
1460 戯奴ワケがため我アが手もすまに春の野に 抜ける芽花ツバナそ召して肥コえませ
(巻八・春の相聞)
大伴家持の贈り和ふる歌二首
1462 我が君に戯奴は恋ふらし贈タバりたる 芽花を食ハめどいや痩せに痩す
大伴坂上サカノウヘノ郎女の、初月ミカヅキの歌一首
993 月立ちてただ三日月の眉根マヨネ掻き 日ケ長く恋ひし君に逢へるかも(巻六・雑歌)
大伴家持の初月の歌一首
994 振り放サけて三日月見れば一目見し 人の眉引きマヨビキ思ほゆるかも
大伴坂上郎女、親族ウガラを宴する日に吟ウタふ歌一首
401 山守ヤマモリのありける知らにその山に 標シメ結ユひ立てて結ひの恥ハヂしつ
(巻三・雑歌)
527 来むと言ふも来ぬ時あるを来じと言ふを 来むとは待たじ来じと言ふものを
(巻四・相聞)
[次へ進んで下さい]