21c 万葉歌、萌芽期から終焉までの秀歌百五十選
 
[第四期/万葉歌終焉の時代]
 
   笠女郎カサノイラツメ、大伴宿禰家持に贈る歌
396 陸奥ミチノクの真野の草原カヤハラ遠けども 面影にして見るといふものを
                            (巻三・雑歌/譬喩歌)
 
598 恋にもそ 人は死にする水無瀬川ミナセガハ 下ゆ我痩す月に日に異ケに(巻四・相聞)
 
608 相思はぬ人を思ふは大寺の 餓鬼ガキの後へシリヘに額ヌカつくごとし
 
   大伴坂上郎女の歌七首
683 言ふことの恐き国そ紅の 色にな出でそ思ひ死ぬとも(巻四・相聞)
 
   大伴坂上家イヘの大娘オホヲトメ、大伴家持に贈る歌
581 生きてあらば見まくも知らずなにしかも 死なむよ妹と夢イメに見えつる
 
1288 水門ミナトの 葦の末葉ウラバを 誰タレが手折タヲりし 我が背子が 振る手を見むと 
   我そ手折りし(巻七・雑歌/旋頭歌)
 
   玉に寄する
1300 をちこちの磯の中なる白玉を 人に知らえず見むよしもがな(巻七・雑歌/譬喩歌)
 
1311 橡ツルハミの衣キヌは人皆事なしと 言ひし時より着欲しく思ほゆ(同・衣に寄する)
 
1346 をみなへし佐紀沢の辺ヘのま葛原クズハラ いつかも繰クりて我が衣に着む
                        (巻七・雑歌・同・草に寄する)
1365 我妹子ワギモコがやどの秋萩花よりは 実になりてこそ恋増さりけれ
                              (同・花に寄する)
1378 木綿ユフかけて斎ふこの社モリ越えぬべく 思ほゆるかも恋の繁きに(同・神に寄する)
 
   鳥を詠む
1840 梅が枝に鳴きて移ろふうぐひすの 羽白たへに沫雪そ降る(巻十・春の雑歌)
 
1885 物皆は改まる良しただしくも 人は古フり行く宜ヨロしかるべし
                          (同・古りゆくことを嘆く)
 
1978 橘タチバナの花散る里に通ひなば 山ほととぎすとよもさむかも
                           (同・夏の雑歌・譬喩歌)
 
2041 秋風の吹き漂タダヨはす白雲は 織女タナバタツメの天つ領布ヒレかも
                            (同・秋の雑歌・七夕)
 
2110 人皆は萩を秋と言ふよし我は 尾花ヲバナが末ウレを秋とは言はむ(同・花を詠む)
 
2204 秋風の日に異ケに吹けば露を重み 萩の下葉は色付きにけり(同・黄葉モミチを詠む)
 
2394 朝影に我アが身はなりぬ玉かきる ほのかに身えて去イにし児コ故に
                             (巻十一・正述心緒)
 
2433 水の上に数書くごとき我が命 妹に逢はむとうけひつるかも(同・寄物陳思)
 
2545 誰タそ彼カレと問はば答へむすべをなみ 君が使ひを帰しつるかも
                         (巻十一・古相往/正述心緒)
 
2570 かくのみし恋ひば死ぬべみたらちねの 母にも告げつ止まず通はせ
 
2572 いつはりも似付ニツきてそする何時よりか 見ぬ人恋ひに人の死にせし
 
2657 神奈備カムナビにひもろき立てて斎イハへども 人の心は守りあへぬもの
                               (同・寄物陳思)
 
2866 人妻に言ふは誰タがことさ衣の この紐解けと言ふは誰がこと
                         (巻十二・古相往/正述心緒)
 
2916 玉かつま逢はむと言ふは誰タレなるか 逢へる時さへ面隠オモカクしする
 
2947 思ひにし余りにしかばすべをなみ 我は言ひてき忌むべきものを
 
3000 魂タマ合へば相寝ヌるものを小山田の 鹿猪田シシダ守モるごと母し守モらすも
                               (同・寄物陳思)
 
3101 紫は灰さすものそ海石榴市ツバキチの 八十ヤソの衢チマタに逢へる児コや誰タレ
                                (同・問答歌)
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