51a 玉鉾百首
 
天照アマテルや月日のかげをしる国は 本モトつ御国ミクニに仕へざらめや
  大意:大空に照る月日の光を蒙りて、その忝けなき御徳を知る国は、その日月の神
 の生出アレイデ給へる御本国に臣となりて、服従せずしてあるべきかと也。
 
諸モロモロのから国人も日の神の 光ヒカリし得ずばいかにかもせむ
  大意:海外各国人も大御神の恩沢を蒙らずしては、如何にして生きてあるべきと也。
 
賢サカシらに言挙コトアゲは為スれどから国も ひるめの神の照らす国内クヌチぞ
  大意:外国では賢げに物の道理を論アゲツラへども、その国々も悉く大御神の照し給ふ
 国内なるものを、さるに日の大御神の道をしらぬはいかにとなり。
 
皇神スメカミの道知らねこそ言コトさへぐ から国人はさかしらすなれ
  大意:外国人は神道の実の伝を知らぬ故に、天地間のことゞもをば、理を以て物知
 り顔に論ずれども、若し皇神の道を知りしならば、その賢げに云へることゞもの非な
 るを知るべしとなり。
 
天知るや日の大神の道をおきて 横さの道に惑マドふ世の人
  大意:天を知看シロシメす日の大御神の道、即ちこの道をさしおきて、正しからぬ横状
 なる道に惑ふ世の人よ、さてもさてもあはれなることよ也。
 
明アキラけき日の大神の道知らぬ からのさかしら聞キキこすなゆめ
  大意:日の大神の明らけき道を知らざる外国人の賢カシコだてをば、つとめて聞き入る
 ゝこと勿れと也。
 
外国トツクニは神代カミヨの伝ツタエなけれこそ 真マコトの道を知らず有りけれ
  大意:外国には、凡て正しき神代の伝無ければこそ、正実の道を知らで、賢カシコげな
 る説を立つるなれとなり。
 
国々に伝ツタエは有れど日の本ホトに もとのまことの事は伝はる
  大意:外国にもそれぞれ上代の伝説に有れども、そは末葉にて正しからず、日の大
 御神の本国なる皇国にこそ、万世一系の皇統と共に連綿として本の真の古事は伝りた
 れと也。
 
上カミつ代のかたちよく見よいそのかみ 古事記フルコトフミはまそみの鏡
  大意:鏡に向かへば、顔のありありと見ゆるが如く、古事記を見れば上代の状をそ
 の侭に見知り得べければ、古事記は上代を見る真澄鏡ぞ、さればその古事記を読みて
 よく上代の状を見よとなり。
 
真具マツブサにいかで知らまし古イニシエを 日本書紀ヤマトミフミの世に無かりせば
  大意:日本書紀の世になかりしならば、古の事を何として詳かに知ることを得べき
 と也。
 
神の代の事らことごと伝へ来て しるせる御書ミフミ見れば尊し
  大意:神代の事どもを尽く古伝のまゝに記録せる御書どもを見れば尊しと也。
 
まそ鏡見むと思はば漢カラことの 塵居チリイくもれり磨トギてしよけむ
  大意:上代を見るべき真澄鏡の日本書紀古事記を見むと思はゞ、代々の識者のこの
 二書を注釈するに、漢籍の意義を以て陰陽五行などに合せて解ける故に、真の古意は
 隠れて恰も鏡に塵居曇れるが如くなれば、その漢意を取捨て磨て見るが宜しと也。
 
しるべすと醜シコの物識モノシリなかなかに 横さの道に人迷はすも
  大意:指南すとて、醜陋なる識者どもが、漢意を以て古典の注釈などして、頻に横
 状ヨコサマの道に人を迷はすることは歎はしと也。
 
さかしらに神代の御書ミフミ説トき枉マげて 漢カラの意ココロになすが悲しさ
  大意:賢だてに神代の古伝説を強ひて理窟に説き曲げ、皇国の古意を失ひて漢意に
 するが悲しさとなり。
 
漢意カラココロなしと思へど書等フミラよむ 人の心はなほぞからなる
  大意:国学する人の、やゝ国体を会得して漢意なしと思へる人も、神代の事を疑ひ
 て神道の真髄をさとらざるは矢張からの意ありとなり、世の学者が高天原は高天に非
 らずとか、海津見宮ワタツミノミヤは対馬に在りとか、夜見国ヨミノクニは伯耆の弓浜なりなど云
 ひ、神代の奇異なることを疑ふは倭意ヤマトゴコロならずして漢意なれば、如何でこの漢意
 を取除きてましと大人のつとめましゝ御心をみるべし。
 
から意ココロ直し給へと大直日オオナオビ 神のなほびをこひのみまつれ
  大意:染シみ附きて離れ難き漢意を去りて倭意に直し給へと、大直日神に直日の御恩
 頼を乞ひ祈ノみ願ひ奉れとなり。
[次へ進んで下さい]