11 祓禊に詠める和歌
参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
△祓所神
はらえどの神のかざりのみてぐらに うたてもまがふみゝはさみかな(紫式部集)
△天罪国罪之別
夏草にはらひかくれど久堅の あまつつみとは露やけぬらん(源順集)
△事後祓禊
ふぢごろもながすなみだのかはみづは きしにもまさるものにぞありける
(蜻蛉日記 上)
かけきやは川瀬の波も立かへり 君がみそぎのふぢのやつれを
(源氏物語 二十一乙女)
ふぢ衣きしは昨日と思ふまに けふはみそぎのせにかはるよを(同)
人すまず荒たるやどときてみれば 今ぞ木葉は錦也ける
(素性法師集/みづのをの御門)
かなしさの涙もともにわきかへり ゆゝしき事をあみてこそくれ
(散木葉歌集 六悲歎)
みそぎしてころもをとこそ思ひしか 涙をさへもながしつるかな(同)
△三月上巳禊
しらざりしおほ海のはらにながれきて ひとかたにやはものはかなしき
(源氏物語 十二須磨)
△祓具
おぼつかなつくまの神のためならば いくつのなべのかずはいるべき
(後拾遺和歌集 十八雑 藤原顕綱朝臣)
△撫物
みし人のかたしろならば身にそへて 恋いしきせゞのなでものにせん
(源氏物語 五十東屋)
みそぎ河せゞにいださむなでものを 身にそふかげとたれかたのまん(同)
ます鏡うつしおこする姿をば まことにみ世の仏とぞみる(続千載和歌集 十釈教)
△人形ヒトガタ
しらざりしおほ海のはらにながれきて ひとかたにやはものはかなしき
(源氏物語 十三須磨)
夏草にはらへかくれば人がたの あまづつみとは露やおくらん
(夫木和歌抄 九夏 順)
身はすてゝ人がたとだに思はぬを なにゝすがぬくみそぎなるらん
(久安六年御百首 待賢門院堀川)
△芻霊スウレイ(藁人形)
さはべなるあさぢをかりに人にして いとひし身をもなづるけふ哉
(堀河院御時百首和歌 夏 俊頼)
みそぎすとしばし人なす麻のはも 思へばおなじかりそめの世ぞ
(夫木和歌抄 九夏 前中納言定家卿)
△菅
なゆ竹の とをよる皇子ミコ さにづらふ わが大王オホキミは 中略 天アメなる さゝらの
小野ヲヌの ななふ菅スゲ 手に取り持ちて 久堅の 天の川原に 出で立ちて 潔身ミソギ
てましを 高山の 石穂イハホの上に いませつるかも(萬葉集 三挽歌)
まくずはふ 春日カスガの山は 中略 かけまくも 綾にかしこし 言はまくも ゆゆし
からんと あらかじめ 兼ねて知りせば 千鳥鳴く その佐保川に いそにおふる 菅
スガの根取りて しぬふ草 はらへてましを ゆく水に 潔ミソギてましを 下略
(同 六雑歌)
△麻
おほぬさの引手あまたに成ぬれば 思へどえこそ頼まざりけれ
(古今和歌集 十四恋 読人しらず)
おほぬさとなにこそたてれながれても 終によるせは有てふ物を
(同 なりひらの朝臣)
おほぬさの引手あまたにとまらねば 思へどえこそたのまざりけれ(奥儀抄 下)
みそぎする川のふちせに引あみを おほぬさなりと人やみるらん(能宣朝臣集)
夏引の麻の大ぬさとりそへて 百官のみそぎすらしも
(年中行事歌合 大蔵卿坊城長綱)
△菅抜スガヌキ
我妹子がうちたれがみの打なびき すがぬきかくる夏祓哉
(堀河院御時百首和歌 夏 源朝臣師頼卿)
八百万神もなごしになりぬらん けふすがぬきの御祓しつれば(同 藤原朝臣仲実)
千年まで人なからめや六月の みたび菅ぬきいのる御祓に(同 阿闍梨砂利隆源)
△解縄トキナハ
おもふことあさぢのなはにときつけて 清き川せに夏ばらへしつ
(久安六年御百首 隆季朝臣)
△雑載
君により 言コトのしげきを 古郷フルサトの 明日香の河に 潔身ミソギしにゆく
(萬葉集 四相聞)
たまくせの 清き河原に 身祓ミソギして 斎イハフ命イノチも 妹イモがためこそ(同 十一)
時風トキツカゼ 吹飯フケヒの浜に 出でゐつゝ 贖アガふ命イノチは 妹がためこそ(同 十二)
なかとみの ふとのりとご いひはらへ あがふいのちも たがためになれ(同 十七)
君なくてあしかりけりと思ふにも いとゞ難波の浦ぞ住うき(拾遺和歌集 九雑)
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