49b 天地創造の謎「人類の始まり」
 
〈母なる大地から生え出る人間〉
 
 イラン神話の最初の人間の男女は、植物の形で地面から生え出たとされ、このように、
人間が植物から化生すると云う人類起源神話も、方々にあります。
 わが国の『竹取物語』のかぐや姫と類似している話として、インドネシアとか、フィ
リピン、台湾などには、人類の祖先は竹から生まれた話があります。
 
 人間が植物から生まれたり、又は植物のように大地から生え出たと云う神話は、古代
ギリシアにもありました。ヘシオドスの叙事詩『仕事と日々』に歌われている有名な神
話に拠りますと、「現在の人類は鉄の種族で、この種族の前には、黄金と銀と青銅と英
雄の四つの人間の種族が次々に生まれては滅亡した。このうちの青銅の種族の人類は、
ヘシオドスに拠ればトネリコの樹から生じた」と云います。
 また別の神話に拠りますと、「ゼウスはある時、人類の暴状に愛想を尽かし、大洪水
を起こし人間たちを滅ぼした。ただデウカリオンとピュラと云う夫婦だけは、正しい人
たちだったので、方舟ハコブネに乗ってこの災から生き残ることを許された。洪水が引いた
後で、彼等は方舟を下り、肩越しに石を投げた。するとデウカリオンが投げた石は、地
面に落ちると人間の男になり、ピュラの投げた石は女になって沢山の人間が大地から生
じ、現在の人類の祖先となった」
 
 このデウカリオンの話と良く似た神話は、テバイ市の建国伝説にも出て来ます。テバ
イは、伝説に拠りますと、「フェニキアから遣って来たカドモスと云う英雄によって創
建された。カドモスは市の建設に取り掛かる前に、付近にあった泉に住んでいた竜を退
治し、アテナ女神の教えに従って、その歯を耕した地面に種を蒔くようにして撒くと、
畝から武装した戦士たちが生じた。カドモスが物陰から石を投げると、スパルトイ(撒
かれた者たち)と呼ばれるこの戦士たちは、互いに殺し合いを始め、終いに五人だけが
生き残った。
 カドモスは、この五人を自分に従わせ、彼等を新しく建設される市の最初の住民とし
た」
 このような神話から我々は、人間が大地を母とし、植物が大地から生え出るのと同じ
ような仕方で、母なる大地から生じると云う考え方が、古代ギリシア人の間に根強く存
在したと考えて良いでしょう。                   (以下省略)
[次へ進む] [バック]