07d [国造り(二)]
 
〈大国主神の系譜〉
 
 さて、この大国主神が、宗像ムナカタの沖津宮オキツミヤにいらっしゃる多紀理毘売命タキリビメノ
ミコトと結ばれて、生まれた子は阿遅且(金扁+且)高日子根神アヂシキタカヒコネノカミ。次に妹の
高比売命タカヒメノミコトが住まれました。この妹は別名を下光比売命シタテルヒメノミコトと云います。
この阿遅且(金扁+且)高日子根神は、今の迦毛大御神カモノオホミカミと云う神です。
 また大国主神が、神屋楯比売命カムオタテヒメノミコトと結ばれて生まれたのが、事代主神コトシロヌシ
ノカミです。また、八島牟遅能神ヤシマムヂノカミの娘、鳥耳神トリミミノカミと結ばれて生まれた子は鳥
鳴海神トリルミノカミです。
 この神が日名照額田毘道男伊許知邇神ヒナテリヌカタビチヲイコチニノカミと結ばれて生まれた子は国
忍富神クニオシトミノカミです。この神が葦那陀迦神アシナダカノカミ、またの名を八河江比売ヤカハエヒメと
結ばれて生まれた子が速甕之多気佐波夜遅奴美神ハヤミカノタケサハヤヂヌミノカミです。
 
 この神が天之甕主神アメノミカヌシノカミの娘、前玉比売サキタマヒメと結ばれて生まれたのが甕主日
子神ミカヌシヒコノカミです。この神が淤加美神オカミノカミの娘、比那良志毘売ヒナラシビメと結ばれて生
まれた子が多比理岐志麻流美神タヒリキシマルミノカミです。
 この神が比比羅木之其花麻豆美神ヒヒラギノソノハナマヅミノカミの娘、活玉前玉比売神イクタマサキタマノ
ヒメノカミと結ばれて生まれた子が美呂浪神ミロナミノカミです。この神が敷山主神シキヤマヌシノカミの娘、
青沼馬沼押比売アヲヌマヌオシヒメと結ばれて生まれた子が布忍富鳥鳴海神ヌノシトミトリナルミノカミです。
 この神が若昼女神ワカヒルメノカミと結ばれて生まれたのが天日腹大科度美神アメノヒバラオホシナドミノ
カミです。この神が天之狭霧神アメノサギリノカミの娘、遠津待根神トホツマチネノカミと結ばれて生まれた
子が遠津山岬多良斯神トホツヤマザキタラシノカミです。
 
  右に挙げた八島士奴美神ヤシマジヌノカミから、遠津山岬多良斯神までを十七世の神と云
  います。
 
〈小さな協力者 − 少名毘古那神〉
 
 ある日、大国主神オホクニヌシノカミが、お供の神たちと出雲の美保ミホの岬の辺りに出掛けたと
きのことです。
 遠い海上から、小さな小さな舟が、岬に向かって漕ぎ寄せて来るのが見えました。
「何だ。あれは。」
「見ろ。虫が乗っているぞ。」
「違う。虫ではない。虫に舟が漕げるか。」
 お供の神たちは、口々に騒ぎ立てました。
 よく見ると、それは蘿摩(草冠+摩)ガガイモの実を二つに割って作った舟で、その上
には、蛾ガの皮を丸剥ぎにして着物にした小さな神が乗っています。
 
 やがて舟は岬に着き、小さな神はぴょんと舟から下り立ちました。
 小さいけれども、凛リンとして犯し難い顔つきをしていますので、大国主神は、丁寧に
尋ねました。
「あなたは何処から来られた。お名をお聞かせ願いたい。」
 しかし、小さな神はにこっと微笑んだきり、何とも応えません。
「お前たち、この方を知らぬか。」
と、お供の神たちに尋ねても、誰も顔を知っている者はありませんでした。
 そのとき、側に居た蟾蜍ヒキガエルが、
「案山子カカシの久延毘古クエビコにお尋ねなさいませ。彼なら物知りですから、きっと知っ
ておりましょう。」
と言いますので、急いで久延毘古を喚んで来させました。
 
 久延毘古は、この小さな神を一目見て、
「ああ、このお方は神産巣日神カミムスビノカミの御子の少名毘古那神スクナビコナノカミ様でいらっし
ゃいますよ。」
と、答えました。
 そこで大国主神は、高天原の神産巣日神に問い合わせますと、この御祖神ミオヤガミは、
「そう、確かに私の子だ。大勢いる子供たちの中で、この子はあまり小さいので、私の
指の間から漏れて抜け落ちてしまった子なのだ。丁度良い。これわが子よ。お前は、葦
原色許男命アシハラシコヲノミコト(大国主神)と兄弟になって、その国の建設に力を尽くすのじゃ
。」
と、仰せられました。
 
 それから、大穴牟遅神オホナムヂノカミと少名毘古那神の二柱の神は、互いに力を合わせて、
この葦原の中つ国の建設に当たられました。
 少名毘古那神の名を明らかにした、いわゆる久延毘古と云うのは、今では山田の曽富
騰ソホド(案山子の古語)と云われている神です。この神は、歩くことは出来ないけれど
も、天下のことを悉く知っていると云う物知りの神です。
 さて、少名毘古那神は、大穴牟遅神によく協力して呉れましたが、葦原の中つ国が未
だ完成しないうちに、来たときと同様、海を渡って飄然ヒョウゼンと常夜国トコヨノクニへ去って
しまいました。
 取り残されて困り果てた大国主神は、少名毘古那神の去った海に向かって、
「私独りで、どうやってこの国を作ればよいのだ。この先、誰が渡しと力を合わせて、
この国を作って呉れるのだ。」
と、嘆きました。
 
 すると、このとき、海上を遥かに照らして、滑るようにこちらに近寄って来るものが
あります。目を凝らすと、それは光り輝く神でした。その神は大国主神の前に立つと、
「私の魂を懇ろに祭るなら、私はあなたに協力して、この国を完成させよう。そうしな
ければ、おそらくはこの国は作り得ないだろう。」
と、宣言しました。これを聞いた大国主神は、
「それでは、どのようにしてあなたの御魂を祭れば良いのでしょうか。」
と尋ねました。神は答えて、
「大和の国の、青々と垣を巡らすような山々のその東の山の上に、身を清めて祭るが良
い。」
と、教えられました。
 これこそ、大和の国の御諸山ミモロヤマの辺ホトリに鎮座される神(大物主神オホモノヌシノカミ)なの
です。
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