03c わが国の神話「天地創成」
[高天原の神]
〈神々の生成〉
これまで述べてきたように、伊邪那岐命イザナギノミコトと伊邪那美命イザナミノミコトは、力を合
わせて、多くの国々を生み、漸くその任務を終えることが出来ましたが、更に今度は、
神々を生むことになりました。
まず、初めに生んだのは大事忍男神オホコトオシヲノカミです。この神の名は、大事な国生みの
仕事を成し終えたと云う意味です。
次に生んだのは、石土毘古神イハヅチビコノカミと云う男神と、石巣比売神イハスヒメノカミと云う女
神です。この二柱の神の名は、それぞれに、岩石と土砂のことを云い、家を建てる材料
のことを意味しています。
次に生んだのは、大戸日別神オホトヒワケノカミと云います。この神の名は、家の入口の門のこ
とを意味しており、家を司る神のことです。
次に生んだのは、天之吹男神アメノフキヲノカミと云います。この神の名は、屋根を葺く男と云
う意味です。
次に生んだのは、大屋毘古神オホヤビコノカミと云います。この神は、家屋を司る神のことで
す。
次に生んだのは、風木津別之忍男神カザケツワケノオシヲカミと云います。この神の名は、風を防
ぐ男神と云う意味です。
次に生んだのは、海を宰ツカサドる神で、その名を大綿津見神オホワタツミノカミと云います。
次に生んだのは、速秋津日子神ハヤアキツヒコノカミと云う男神と、速秋津比売神ハヤアキツヒメノカミと
云う女神です。この二柱の神は、海中に注ぐ川の門口を司る水戸ミナトの神のことです。
初めの大事忍男神から、秋津比売神まで合わせて十柱の神となります。
最後に生んだ速秋津日子神と、速秋津比売神は、それぞれに、一方は川、一方は海を
分担して宰ツカサドっていますが、この二柱の神が、力を合わせて次ような神々を生みまし
た。
まず初めに、沫那芸神アワナギノカミと云う男神と、沫那美神アワナミノカミと云う女神を生みまし
た。この神の名は、それぞれに水の泡が凪ナいでいる、と云うことと、水の泡が立ち騒い
でいる、と云う意味です。
次に、頬那芸神ツラナギノカミと云う男神と、頬那美神ツラナミノカミと云う女神を生みました。こ
の神の名は、それぞれに水面が静かに凪いでいる、と云うことと、水面が荒く波立って
いる、と云う意味です。
次に、天之水分神アメノミクマリノカミと、国之水分神クニノミクマリノカミを生みました。この二柱の神
は、分水嶺にあって、それぞれに分水を司る神です。
次に、天之久比奢母智神アメノクヒザモチノカミと、国之久比奢母智神クニノクヒザモチノカミを生みまし
た。この二柱の神は、それぞれに水を汲んで施す役目を持っており、矢張り分水を司る
神です。
沫那芸神から、国之久比奢母智神まで合わせて八柱の神です。
伊邪那岐命と伊邪那美命は、更に続けて、風を宰ツカサドる神の、志那都比古神シナツヒコノカミ
を生みました。この神の名は、吐く息が長い男と云う意味です。
次に木神キノカミである、久久能智神ククノチノカミを生みました。この神の名は、木々の枝葉の
生命力を意味しています。
次に、山神ヤマノカミである大山津見神オホヤマツミノカミを生みました。
次に、野神ヌノカミの鹿屋野比売神カヤヌヒメノカミを生みました。この神の名は野に生えている
草の生命を司る女神、と云う意味です。別名を野椎神ヌヅチノカミとも云いますが、これは、
野原に宿る威霊と云うことを云います。
志那都比古神から、野椎神まで、合わせて四柱の神となります。
最後に生まれた、大山津見神と鹿屋野比売神は、それぞれ、山と野を分担して司って
いる神ですが、この二柱の神は、力を合わせて、次のような神々を生みました。
まず初めに、天之狭椎神アメノサヅチノカミと、国之狭椎神クニノサヅチノカミを生みました。これら
の神の名は、何れも土地を守り司る神と云う意味です。
次に、天之狭霧神アメノサギリノカミと、国之狭霧神クニノサギリノカミを生みました。この神の名は、
何れも霧を司ると云う意味です。
次に、天之闇戸神アメノクラドノカミと、国之闇戸神クニノクラドノカミを生みました。この神の名は、
何れも、深くて闇クラい谷間を司る神、と云う意味です。
次に、大戸惑子神オホトマトヒコノカミと云う男神と、大戸惑女神オホトマトヒメノカミと云う女神を生み
ました。この神の名は、何れも、闇い谷間で迷うと云う意味で、深い谷間の道を司る神
です。
以上に述べた、天之狭椎神から、大戸惑女神まで合わせて八柱の神となります。
更に、伊邪那岐命と、伊邪那美命の二柱の神は、力を合わせて、次のような神々を生
みました。
初めに生んだのは、鳥之石楠船神トリノイハクスフネノカミです。この神の名は、鳥のように早く、
岩のように強い楠の木で造った船、と云う意味です。この神の別名を天鳥船神アメノトリフネノ
カミと云いますが、これは、鳥のように空も海も通うことが出来る、と云う意味で、交通
を司る神です。
次に、食物を司る女神の、大宜都比売神オホゲツヒメノカミを生みました。
次に、火を司る神の、火之夜芸速男神ヒノヤギハヤヲノカミを生みました。この神の別名を、火
之加賀毘古神ヒノカガビコノカミと云い、又の名を、火之迦具土神ヒノカグツチノカミと云います。いず
れも、火の燃える勢いが、盛んであることを意味しています。
伊邪那美命イザナミノミコトは、この燃え盛る火の神を生み落とすとき、大変難儀をされて、
遂に、陰処ホトを焼かれてしまい、そのため、病の床に伏してしまいました。
そのとき、伊邪那美命は、激しい咳セキをして、口から反吐ヘドを吐き出してしまいまし
たが、その反吐の中から、金山毘古神カナヤマビコノカミと云う男神と、金山毘売神カナヤマビメノカミ
と云う女神が生まれました。この二柱の神は、何れも鉱山を司る神です。
次に伊邪那美命は、波邇夜須毘古神ハニヤスビコノカミと云う男神と、波邇夜須毘売神ハニヤスビメ
ノカミと云う女神が生まれました。この二柱の神の名は、何れも土を粘らせる、と云う意味
で、土器などを作る、粘土ネバツチの神のことです。
更に伊邪那美命の、尿の中から二柱の神が生まれました。
初めに生まれたのは、弥都波能売神ミツハノメノカミと云います。これは、潅漑用の水を司る
女神です。
次に生まれたのは、和久産巣日神ワクムスビノカミと言います。これは、穀物の生育を司る男
神です。
この二柱の神から生まれた子供を、豊宇気毘売神トヨウケビメノカミと云います。これは、あ
らゆる食物を司る女神です。
さて、伊邪那美命は、燃え盛る火の神を生んだときの、火傷が因で、病が次第に重く
なって、遂に亡くなってしまいました。
以上述べた天鳥船神から、豊宇気毘売神まで合わせて八柱の神となります。
なおこれまで、伊邪那岐命と伊邪那美命が、力を合わせて生んだ島の数は十四、神
の数は三十五となります。この数は、伊邪那美命が、未だ亡くならない前に生んだ
ものです。ただし、淤能碁呂島オノゴロジマは生んだものではなく、文字通り自然に出
来上がったものです。また、水蛭子ヒルコと淡島は、生んだものの数には入っていませ
ん。
[次へ進む] [バック]