松舘菅原神社例祭奉納神楽
[松館天満宮三台山獅子大権現舞]

 
「権現舞」(平成11年4月25日例祭奉納の例)
 
 権現舞は獅子頭を高く挙げ、歯を打ち鳴らして舞い廻す舞で、尾絡み役は、獅子頭の 回転に連動して絡みを行う。学業成就、無病息災などを祈願する。
 獅子頭は木製で漆が塗ってあり、神の権化として恐ろしきいかめしき顔面である。毛 髪は麻緒や五色の紙を幅三分程度に切ったもので、頭部に沢山はやしている。
 獅子頭の首部に取り付けられている衣装、すなわち幕は、地元産の麻布で織り上げた ものである。地は黒色、背中は大蛇の鱗模様に茄子紺色に染め上げており、尾となる部 分は十尺程ある。腹面は黒色の地に白色の横縞入りである。その姿は龍であろうか、そ れとも大蛇であろうか。
 
 舞の曲は同じく「権現舞の曲」である。舞人は佐藤正孝、尾絡み役は田中昌市である。  尾絡み役は、神社本殿の神前に仮安置してある獅子頭を奉持してきて、舞処の中央の 進み出る。
 舞人は既に拝礼を終え、そしてまた獅子頭をも拝んで、無事舞い納められんことを祈 る。
 尾絡み役から獅子頭を受け取り、左手を幕の中に差し込んで獅子頭を高く持ち上げる。 左手で持ち上げた獅子頭の方向と、舞人の身体の向きとは直角となるため、獅子頭を御 前方向に向けようとするためには、身体は左方向に向きを変えていなければならない。 すなわち、原則として右足は獅子頭の前に、左足は後ろに構えて立つのである。尾絡み 役は、その側に尾を手繰り持って構え、舞人が舞を舞いやすいように動き廻る。
 
 初めは片手打ちの舞である。この舞は、これから権現舞を舞い納めんと、舞処に登場 したことを告げ知らせる舞である。あたかも権現たる神(以下「権現神」という。)が 悠々堂々とこの世に現れ、厳かに衆生を睨み廻し、威嚇しているかのように舞うのであ る。
 左手で獅子頭を高々と持ち上げ、ゆっくり右回りに廻りながら、左手首を使って、左 手のみで獅子頭を三回打ち鳴らす。尾絡み役は、尾を持って権現神の胴を巻いて幕の弛 みを引き締める。これを右回り、左回り、右回りと三度舞い廻る。
 
 次は拝みの舞である。この舞は、これから権現舞を舞い始めようとする舞で、あたか も四面の神々を拝んでいるように舞う舞である。
 左手で獅子頭の顎を持ち、右手で獅子頭の鼻の部分を外側から幕ごとつかんで打ち鳴 らしながら舞うのである。右回りに三回打ち鳴らし、次に左回りに三回打ち鳴らし、次 にまた右回りに三回打ち鳴らす。曲は四拍子のため、打つ音はガクッ、ガクガクと聞こ える。舞い廻る早さいよいよ速く激しくなってゆく。胴に巻いた尾を獅子頭と伴に潜っ ては解き、解いてはまた潜って胴に巻き付けるなど、舞人と尾絡み役とは呼吸を一つに して、躍動的に舞い廻るのである。
 
 そしていよいよ獅子頭は冠のごとく、また幕は権現の装束に見立てて、その中に舞人 が入って舞う舞に入る。いわゆる権現舞の本舞である。拝みの舞を舞い廻っている一瞬 の間に、舞人は石火の如き早業で権現神に成り変わってしまうのである。これは、四方 の衆生をアッといわせる、真に舞人の妙技である。
 
 権現舞の本舞の歯打ちは、左手で獅子頭を高々と持ち上げ、右手で顎下をつかんで、 ガクッ、ガクガクと打ち鳴らす。ガクッ、ガクガクと右回りに廻っては胴に尾を巻き付 け、左回りに廻っては尾を解き、解いてはまた巻き、巻いてはまた解く。その舞い廻り 方は、拝みの舞と同じである。獅子頭はあくまでも高々と、そして顔面はやや下向きに して舞い廻る権現神の眼光は、四方の衆生をキッとにらみつけ、その恐ろしき威容、そ の舞の激しくいかめしき様は、正しく菅原道真公の権化そのものである。
 
 この本舞のときから、下田初雄は御神歌を歌う。本舞の種々の仕草に合わせて、朗々 と歌い上げるのである。また、権現神の動作に呼応するかのように、尾絡み役は、あた かもその権現神を奮い立たせんとして、サッサッサッサと掛け声を掛けて、権現神の胴 体を尾で打ち撫でる。手平鉦役や太鼓役の楽人たちも、一斉にサッサッサッサと掛け声 を掛けて、権現神を煽り立てるのである。
 
本舞の基本は四方固めの舞で、これは権現神がいよいよこの世(舞処)に現れ、その 御稜威を顕示し賜う舞である。ガクッ、ガクガクと歯を打ち鳴らしながら、右回りに廻 り、次に左回りに廻り、最後に右回りに舞い廻るのである。
 この四方固めの舞の次には、以下のような仕草の舞を順次舞う。
 
 一つ目は神鎮めの舞で、これは四面の神々に対して、片膝を突いてあたかも拝礼する かのように、優しく歯を二度打ちして、神々を和ませる舞である。もちろんその仕草は 、四方の衆生をも考慮してのものと考えられる。
 これが終わると、四方固めの舞を舞う。
 二つ目は食みの舞で、これは権現神が自らこの世にある諸々の罪障を食み、呑み込ん でしまうという舞である。獅子頭を高々と挙げ、力強く歯を打ち鳴らし続け、それを前 方へ倒しながらやがて顔面や上体を仰向けにして大きく右へ回し、次第に歯の打ち方は 小刻みになる。足は前後に開いたまま動かさず、腰を据えて、これを三度繰り返す。
 これが終わると、四方固めの舞を舞う。
 三つ目は罪障直しの舞で、これは権現神が呑み込んだ諸々の罪障を直し賜わんがため の舞である。併せて舞人をも呑み込んでしまわれるのである。すなわち獅子頭が舞人自 らの頭を噛んだまま、ゆっくりと堂々と右回りに廻り、次に左回りに廻り、最後に右回 りに舞い廻る。この舞で、舞人は一呼吸するのであるともいわれる。
 これが終わると、四方固めの舞を舞う。
 四つ目は震いの舞で、これはただ今現在、罪障直しが成就され、権現神の身体がいよ いよ極まって全身が震い立っていることを現している舞である。左手で獅子頭を持ち、 幕の中から右手で獅子頭の鼻を取り、高々と挙げて奮い続け、それを前方に倒しながら 次第に右へ大きく回して行く。足は前後に開いたまま動かさず、腰を据えて、これを三 度繰り返す。
 これが終わると、四方固めの舞を舞って、全ての権現舞を舞い納めることとなる。
 
 舞人は舞い終わった後、獅子頭を拝んで滞りなく舞い納めたことを謝し、そして最後 に御前に正座して拝礼する。
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