0606蛇
参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
〈蛇ヘビ〉
「蛇」
トカゲ目ヘビ亜目の爬虫類の総称。爬虫類の中で最も特殊な体形を持つ。即ち体は円
筒形で細長く、小鱗で瓦状に覆われ、肢と肢帯がないが、原始的なメクラヘビやボア類
には後肢の痕跡がある。舌は細長く、先端は2分。小動物や鳥、鳥の卵を食う。有毒のも
のと無毒のものとがある。世界の熱帯・亜熱帯を中心に、メクラヘビ・ニシキヘビ(ボア
・オオヘビ)・ヘビ(ナミヘビ)・クサリヘビ・コブラ・ミズヘビ・イトヘビ・ユウダなど13科
約2千7百種が分布。不吉なもの、執念深いものとして嫌われるが、神やその使いとする
ところも多い。古名、くちなわ・ながむし・かがち。
「蛇の伝説」
古代的な観念では蛇は、大地の主として重要な意義を持っていた。『古事記の八岐ヤマタ
の大蛇オロチの物語は、娘を人身御供に求める大蛇を英雄が退治し、二人は幸福な結婚をす
ると云う昔話の形式を備えているため、文学として好まれ有名であるが、神話の体系の
中での大蛇は大地の主であると考えられるのである。体は長く多数の山と谷に亘り、体
に苔や檜や杉が生えていると云うのは、それに相応しい描写である。須佐之男命
スサノオノミコトが大蛇を退治し、自身が大地の主になると云う意味と考えられるのである。
須佐之男命の子孫大己貴命オオナムチノミコトは一名を大国主神と云い、大地の主である。大己
貴命の和魂ニギタマは大和国の三輪の神に祀られたが、三輪の神は蛇体の神とされている。
「大己貴」を「大穴持」と表記されていることもあるが、これは立派な穴を持つ神の意
で、その穴は蛇の巣であるとも考えられるのである。
三輪の神の他にも、地方の名神には神を蛇体とする伝承がある。長野県の諏訪の神が
蛇であることは、中世の語り物文学で名高く、武蔵国の総社である府中の六所明神も蛇
が神体であると云う。相模国の三の宮明神は蛇で、本殿の下に事実蛇が居たと云う伝え
るある。寺院の地主神として発達した金比羅コンピラ権現や山王サンノウ権現も蛇体と云う。大
地の主の神を蛇体と考えたのである。また、琉球諸島には、蛇が地震を起こすと信じら
れていた島があった。
雷神が蛇の姿を執っていると云う信仰は、わが国では上代から知られている。『常陸
風土記』には、雷神の御子が蛇の姿で誕生したと云う説話がある。蛇は一方では、水神
とも見られ、雷神と水神を同一視する場合もある。弁才天は蛇を神の使わしめとし、水
神として信仰されることが多いが、一歩進んで稲作の守護神となり、神を蛇体とするこ
ともある。米倉に蛇が居ることを喜ぶ風習もあり、蛇を倉の中に祀って富裕になったと
云う家の話もある。
人間と蛇との婚姻譚も、かつては宗教的水準で信じられていた。古く『古事記』など
には、三輪の神が若者の姿で姫のところへ通い、子孫を残したと云う物語がある。『平
家物語』に見える緒方氏の如く、蛇の血を受け継いだと信じられた家柄も少なくなかっ
た。昔話の蛇婿入りの譚で、蛇との絶縁を説くものが多いのは、そうした信仰の裏返し
の表現と考えられる。蛇が妻となって人の子を産む蛇女房の話にも、その子供が著名な
英雄になると云う例などもある。
関連リンク わが国の神話[国造り(一)〈大蛇退治〉]
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