0602檜垣
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈檜垣ヒガキ〉
「檜ヒノキ」
 ヒノキ科の常緑高木。わが国特産種。高さ30〜40m。樹皮は赤褐色、葉は小鱗片状で、
枝に密生。雌雄同株。春、枝の上に小花を開き、後に球果を結ぶ。材は帯黄白色、緻密
で光沢・芳香があり、諸材中最も用途が広く、建築材として最良。チャボヒバ・クジャク
ヒバなど葉の美しい園芸品種もある。古称、ひ。
 
「檜垣」
 能の曲名。三番目物(鬘物カズラモノ)。世阿弥作。古くは『檜垣の女』とも。『後撰集
』『大和物語』を典拠とする。
 まず後見が藁屋の作り物を設える。左右の下部は檜の薄板を網代アジロ組みにした垣、
即ち檜垣となっている(前場は引き回しを掛けておく)。賎しい住まいを表す。肥後国
岩戸イワド山に篭もる僧(ワキ)は、毎日水桶を持ち仏に水を手向ける老女(前シテ)に
名を尋ねる。老女は、元太宰府で檜垣の庵に住んだ白拍子シラビョウシが、老いて白川に住
み、通り掛かった藤原興範オキノリに請われて水を参らせた話をし、夕紛ユウマグれに消え失せ
る(藁屋の中に中入)。日が暮れると、川霧の中に庵の燈が見え、彼の老女(後シテ)
が現れる。老女は、地獄に堕ちて因果の炎に身を焼き、釣瓶ツルベで繰り返し水を汲んで
も浮かばれぬ苦しみを見せ、興範の所望で舞った舞(序之舞)を静かに舞い、僧に回向
を頼む。
 
 簡潔な構成による、極めて静かな能である。世阿弥の『能作書』には、女能の代表作
として挙げている。前シテは姥ウバ或いは老女の面を懸け、後シテは専用面の檜垣女
ヒガキノオンナの面を懸けて白を主体とした装束を用いる。登場に際し、前シテは「習ナライノ次
第」、後シテは「習ノ一声イッセイ」と言う常とは異なる囃子を奏する。また最後は謡の後
囃子の残る「残留ノコリドメ」となる。その他曲中に多くの口伝や秘伝がある。また古くは
序之舞の初めに乱拍子ランビョウシを踏む演出が行われていた。能の中でも最高の秘曲に数え
られ、余程年功を積んだ演者でなければ上演が許されない。従って上演される例も極め
て少ない。本曲と『姥捨オバステ』『関寺セキデラ小町』とを併せて「三老女」と称し、至難
の曲として扱う(ただし流儀によっては三老女に扱う曲が異なり、また宝生流では『檜
垣』の謡のみ残し能では上演しない)。
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