0502鵺
参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
〈鵺ヌエ〉
「鵺」
トラツグミの異称。
「虎鶫トラツグミ」
スズメ目ヒタキ科の鳥。ツグミよりやや大形で、背面は黄褐色、腹面は黄白色で一面
に三日月形の黒斑がある。わが国・中国などで繁殖し、冬は南へ渡る。低山帯の林に棲
み、夜「ひいい、ひよお」と寂しい声で鳴く。ヌエ・ヌエシナイ。
「鵺」
能の曲名。五番目物(切能物)。世阿弥作。『平家物語』の「鵺」を典拠とする。
旅僧(ワキ)が都へ上る途中、津の国芦屋へ着く。夜の更フける頃、舟の形をした埋木
ウモレギに乗り、水棹ミサオを手にした人影(前シテ)が近付く。僧がその異様な姿を不審に
思い、名を尋ねると、鵺の亡霊であると言う。そして亡霊は、頼政に討たれたときの有
様を語り(クセ)、僧に弔いを請い、また水に棹刺して消えて行く(中入)。僧の読経
のうちに、怖ろしい姿の鵺(後シテ)が現れる。そして、毎夜宮中の屋根に出没して帝
を悩ませていた鵺が、頼政の矢にかかって殺され、丸木舟で淀川へ流された様を再現し
て見せ、水の中へ消える。
頼政の鵺退治の物語を、鵺の側から描いた能。シテは、律動的リズミカルな地謡に合わせ
て鵺が射殺された様を、前場のクセと後場の型で、具体的に演ずる。そこに、敗れたも
のの悲哀を、そこはかとなく感じさせる。鵺は詞章に頭は猿、尾は蛇、足手は虎の如く、
鳴く声はヌエ(トラツグミ)に似るとある。その顔立ちを、後シテの懸ける小飛出
コトビデ又は猿飛出サルトビデと云う面で表すが、殊に猿飛出は、くすんだ赤色で彩色された
猿に似た表情を持つ面で、本曲に相応しい。
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