0601萩大名
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈萩大名ハギダイミョウ〉
「萩」
 マメ科ハギ属の小低木の総称。高さ約1.5mに達し、叢生。枝を垂れるものもある。葉
は複葉。夏から秋、紅紫色又は白色の蝶形花を多数総状に着け、後莢サヤを結ぶ。種類が
多い。観賞用、また家畜の飼料。普通にはヤマハギ・ミヤギノハギを指す。秋の七草の
一。胡枝花。
 
「萩大名」
 狂言の曲名。領地を巡っての訴訟事ゴトで在京する田舎大名(シテ)が、気晴らしに外
出を思い立つ。太郎冠者と相談の上、東山清水の観世音にお礼参りをし、冠者の知って
いる茶屋へ萩の花見に行くことになる。ただ、茶屋の亭主が歌好きで、花見をすれば当
座(即席の和歌)を詠む慣わしがあると云う。そこで冠者が聞き覚えの「七重八重九重
とこそ思ひしに十重トエ咲き出づる萩の花かな」と云う一首の歌を教える。大名はとても
覚えられないと言うので、物に寄ヨソえて記憶しようと、扇の骨を七本八本開いて見せた
ら「七重八重」、九本で「九重とこそ思ひしに」、全部開いたら「十重咲き出づる」と
し、末句は、太郎冠者が足の向こう臑ズネを見せることにする。臑脛スネハギと萩との同音
語を利用しての苦肉の策である。さて茶屋に着いて庭の景観を眺め、萩の花を見物する。
いよいよ亭主が歌を所望するが、折角の打ち合わせも空しく、大名は「七本八本」と言
ったり「ぱらりと開いた」と叫んだりの失敗を重ねる。呆れた太郎冠者が姿を隠してし
まうので、大名は狼狽ウロタえる。亭主に末句を問い詰められ、苦し紛れに「太郎冠者の向
こう臑」と答えてしまう。「面目も下りない」と謝って終わる、一句留イックドメ。
 
 大名狂言。大蔵・和泉両流にあり、構想は同じ。備後砂ビンゴズナ・置石・梅の古木・その
枝振り・宮城野産の萩、と庭を愛でるに際し、大名の一言一言が無風流・無教養を露呈さ
せる。加えて歌一首満足に覚えられない愚かな大名として描かれているが、これは狂言
一流の誇張と戯画化であり、全体としては、愚昧グマイ・尊大・鷹揚オウヨウ・無邪気・稚気など
の性格が統一的に表現されて面白くなる狂言である。天文年間の記録、石山本願寺『証
如ショウニョ上人ショウニン日記』に「大名萩花一見所」の狂言曲名があるから、古作の狂言と言
える。
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