0405土蜘蛛
参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
〈土蜘蛛ツチグモ〉
「土蜘蛛」
「土雲」とも。神話伝説で、大和朝廷に服従しなかったと云う辺境の民の蔑称。
「蜘蛛クモ」
クモ綱クモ目の節足動物の総称。体は頭胸部と腹部とに分れ、どちらにも分節がない。
頭胸部に8個の単眼と6対の付属肢がある。書肺または書肺と気管の両方で呼吸し、腹部
にある糸疣イトイボから糸を出す。網(いわゆる「くものす」)を張るものと張らないもの
とがある。卵は一塊にして産み、糸で包んで卵嚢を作る。子蜘蛛は糸を流して風に乗っ
て飛行し、散らばる。ジョロウグモ・オニグモ・ハエトリグモ・キムラグモ・ハナグモなど。
世界に約3万5千種、わが国だけでも1000種以上ある。ささがに。
「土蜘蛛」
能の曲名。五番目物(切能物)。作者未詳。「土蜘」とも。『平家物語』の「剣巻」
を典拠とする。
ある夏、源頼光(ツレ)が病に臥せっているところへ、典薬頭テンヤクノカミから薬を届けに
胡蝶と云う少女(ツレ)が訪れ、頼光の従者(ツレ)の案内で頼光に会い、病状を訊い
て帰って行く。続いて僧(前シテ)が訪れ、病状を尋ねる。蜘蛛に似た僧の姿を不審に
思った頼光が斬り付けると、僧は蜘蛛の糸を投げて消え失せる。この騒ぎを聞いて独武
者ヒトリムシャ(前ワキ)が駆け付け、やがて土蜘蛛退治に出発する(中入)。独武者の下人
(アイ)が早打ちに発タち、土蜘蛛出現と独武者が退治に向かう旨を触れて歩く(塚の作
り者が設えられ、中に後シテが入っている)。独武者(後ワキ)は従者達(ワキツレ)
を引き連れ、土蜘蛛(後シテ)の隠れる塚を取り囲む。そして続け様に糸を投げ掛けて
抵抗する土蜘蛛を捕らえ、首を打って都へ帰る。
頼光武勇譚の一つとして、土蜘蛛退治を童話風に描く能。後場、シテが投げる蜘蛛の
糸は、古くは数本の太い紙の糸を投げる仕組みであったが、金剛流で小書コガキ演出の「
千筋之糸」と名付け、紙を細く切った糸を、ふんだんに投げる工夫をし、現在では各流
共この方法を採っている。また、駆け付ける独武者に、僧姿の土蜘蛛が橋掛で擦れ違い、
振り向いて糸を投げる小書「入違イレチガイ之伝」もあり、興を添える。
早くから歌舞伎にも採り入れられたが、明治十四年(1881)河竹黙阿弥作の舞踊劇『
土蜘』(長唄)が五世尾上菊五郎によって初演。能様式を模した松羽目物マツバメモノで、「
新古演劇十種」に選ばれた。後六世梅幸・六世菊五郎に受け継がれ、近年では二世尾上松
緑が特異としている。
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