0406釣狐
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈釣狐ツリギツネ〉
「狐」
 イヌ科キツネ属の哺乳類。頭胴長70p、尾長40p程。イヌに似るが、体は細く、尾が
太い。耳は大きく、顔は尖る。毛はいわゆる狐色で、飼育品種には銀、黒などもある。
北半球の草原から森林に広く分布、主に夜行性。餌はネズミ・小鳥などで、植物も食べ
る。わが国では人を騙ダマすとされ、狡ズルいものの象徴にされてきたが、稲荷神の使い
でもある。毛皮用に飼育される。なお、広くはキツネ属及び近縁の総称。きつ・くつね。
 
「釣狐」
 狂言の曲名。一族の狐が次々と猟師に捕らえられて根絶やしにされ、今や我が身も狙
われている古狐(シテ)は、猟師の伯父である白蔵主ハクゾウスと云う僧侶に化けて、猟師
の家を訪れる。妖狐玉藻前タマモノマエの伝説を物語って狐の執心の恐ろしさを強調し、猟師
に罠ワナを捨てさせることに成功する。さて喜んで小歌混じりに帰る道すがら、先刻捨て
させた罠を発見する。見れば大好物の若鼠の湯揚げが餌に付いている。何度か飛び掛か
って食おうとするが、やっと思い止まり、化身の扮装を脱ぎ身軽になってから食おうと、
その場を立ち去る(中入)。伯父の様子に不審を覚えた猟師は、罠が荒らされているの
を見て、狐の仕業と分かり、罠を掛け直して待機する。やがて正体を現した古狐がやっ
て来て、注意深く餌を突ツツき回すうち罠に掛かるが、必死に外して逃げて行く。
 
 雑狂言。大蔵・和泉両流にあり、筋立ては変わらない。二場から成り、前シテは狐の縫
い包グルみの上に僧衣を纏っている。それを脱いだ後シテの狐も狂言らしい俳味ハイミの中
に一抹イチマツの悲しさを漂わせるが、寧ろ前シテの化身の方に強く獣性に潜む恐怖と悲哀
を感じさせる。忽然と登場してから中入するまでの緊張感の連続。上半身を屈カガめ、極
度に腰を入れ、終始獣足ケモノアシと云う特殊な足運びで演技する。発声も甲高く執り、然も
悽愴セイソウである。大蔵流では極重習ゴクオモナライ、和泉流では大習オオナライとして重んじ、技術
は元より、精神的にも異常な集中力を要求される。能における『道成寺ドウジョウジ』に似
て、狂言師の修業の総仕上げとしての意味を持つ。
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