0404蔦紅葉宇都谷峠
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈蔦紅葉ツタモミジ宇都谷峠ウツノヤトウゲ〉
「蔦」
 @キヅタ・ツタウルシなど蔓性木本の総称。
 Aブドウ科の落葉蔓性木本。中国・わが国に産する。茎は吸盤を有する巻髭で他物に絡
み、葉は掌状に3〜5裂。初夏、葉腋に淡黄緑色の小花を総状に着け、黒色の液果となる。
紅葉が美しく、塀・壁などに這わせる。ナツヅタ・地錦。漢名、常春藤。
 
「蔦紅葉宇都谷峠」
 歌舞伎脚本。河竹黙阿弥作。世話物。五幕。安政三年(1856)九月江戸市村座初演。
通称『宇都谷峠』『文弥ブンヤ殺し』『座頭ザトウ殺し』。金原亭馬生バショウの人情話に取材
したもので、作者が四世市川小団次と提携した第一作である。
 座頭の文弥は、姉お菊が吉原へ身売りして作って呉れた金で官位を取ろうと京都へ上
る途中、鞠子マリコの宿で胡麻の蝿の提婆ダイバの仁三ニサに金を狙われるが、同宿の伊丹屋
イタミヤ重兵衛に助けられる。主家のため百両の調達に迫られていた重兵衛は、翌未明のう
ちに文弥を送って宿を立ち、宇都谷峠でその金を貸して呉れと頼むが、断られてやむを
得ず文弥を殺して金を奪う。その後、重兵衛は文弥の怨霊に苦しめられ、また殺しの現
場を目撃した仁三からは脅迫されて窮地に立ち、遂に鈴ケ森へ仁三を誘い出して殺し、
自らも捕らわれる。
 
 脚本には他に、お菊後に遊女古琴コキンと白木屋彦三、彦三の妹お駒と重兵衛の主人才三
郎と云う二組の情話が添えてあり、文弥一家の悲惨な境遇と罪を負って生きる重兵衛と
の悲劇的な絡み合いが深刻に描かれているが、見所は宇都谷峠の文弥殺しと伊丹屋の強
請ユスり場。初演の小団次以来、文弥と仁三と云う対照的な二役を早替わりで演じるのが
演出の特色で、近世では六世尾上菊五郎の二役と初世中村吉右衛門の重兵衛の組合せ
コンビが評判だった。現代では十七世中村勘三郎の二役、八世松本幸四郎の重兵衛が最高
とされ、この組合せにより昭和四十四年九月、国立劇場において初演以来の通し上演が
実現された。
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