0402千鳥
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈千鳥チドリ〉
「千鳥」
 チドリ目チドリ科の鳥の総称。嘴クチバシは短くその先端に膨らみがあり、趾アシユビは3
本、後趾を欠く。河原などに群棲し、歩行力も飛翔力も強い。イカルチドリ・コチドリ・
ムナグロなど何れも美しい。世界に約60種、わが国には12種が分布。古来、詩歌では冬
鳥とされる。
 
「千鳥」
 狂言の曲名。主人は太郎冠者カジャ(シテ)を呼び出し、支払いの溜まっている行き付
けの酒屋に行って、今度も代金なしに酒を買って来いと命じる。冠者が酒屋へ行くと、
案の定酒屋もそう容易く酒樽を渡して呉れない。冠者は酒屋が話好きなのに付け込み、
伊勢の浜辺で見た千鳥を伏せるところの話をし始める。まず酒屋に「浜千鳥ハンマチドリの友
呼ぶ声は」と囃させ、自分は「チリチリヤ、チリチリ」と謡いながら、酒樽を千鳥に見
立てて持って行こうとするが、見咎められる。次に津島祭に山鉾ヤマボコ(山車ダシ)を引
き回す様子を見せようと、これも酒樽を山鉾に見立てて綱で引き寄せるが、成功しない。
最後に流鏑馬ヤブサメの模様に話を替え、馬に乗った振りをして走り回りながら、やっと酒
樽を奪って逃げるのを、気が付いた酒屋が追い込む。
 
 太郎冠者狂言。大蔵・和泉両流にあり、構想に若干の違いがある。太郎冠者の楽しい仕
方話が両流共中心になるが、和泉流では、酒の代わりとして一駄の米を先に寄越した筈
だがそれが未だ届かぬと偽り、それでは米が届くまで話をして行こうと云う設定で、津
島祭の話が始まる。従って酒樽を盗むようにして持って行こうとする太郎冠者の焦アセり、
そうはさせまいとする酒屋の警戒心が強く表現されて、緊迫感に富んだ笑いをもたらす。
それに対して大蔵流は、同じく騙し取って来るにせよ、話好きな酒屋とそれに劣らぬ話
好きの「合口アイクチ」である太郎冠者との醸し出す和やかな気分が一曲を支配する。
 天正狂言本には、『浜千鳥』の名で載っている古作の狂言である。
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