0310蝉丸
参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
〈蝉丸セミマル〉
「蝉」
カメムシ目セミ科の昆虫の総称。頭部は低い三角形で、両側に丸い複眼があり、その
間に3個の赤い単眼がある。腹面の長い吻で樹液を吸う。雄は腹面に発音器を持ち、鳴
く。雌は樹皮に産卵、孵化フカした幼虫は、地中に入って植物の根から養分を吸収し、数
年かかって成虫になる。クマゼミ・アブラゼミ・ヒグラシ・ツクツクボウシなど。せび。
「蝉丸」
能の曲名。四番目物。世阿弥作と云われる。『今昔物語』を典拠とする。
延喜エンギ帝即ち醍醐天皇の第四皇子蝉丸(ツレ)は盲目に生まれ、ある初秋の頃、父
帝から逢坂山へ捨てよとの命を受けた清貫キヨツラ(ワキ)及び輿舁コシカキ(ワキツレ二人)
達に伴われて山へ向かう。そこで剃髪し僧形となり(物着モノキ)、捨て置かれる。此処へ
博雅三位ハクガノサンミ(アイ)が現れ、藁屋ワラヤを設らえ世話をする(後見は藁屋の作り物を
脇座前に置き、ツレがその中に入る)。狂女の姿となった姉皇女逆髪サカガミ(シテ)は、
都からこの地へ訪れる。そして藁屋から蝉丸の弾く琵琶の音を聞き、互いに名を呼びな
がら姉弟は再会し、不遇を託カコつ。やがて名残を惜しみつつ逆髪は去って行く。皇子と
生まれながら不幸な宿縁を持つ二人の、永久に救われることのない悲劇を扱った能。
世阿弥の『申楽サルガク談儀ダンギ』にある『逆髪の能』は、この『蝉丸』のことと云わ
れる。シテの都から逢坂山までの道行の舞を除けば、極めて動きの少ない能である。そ
のため、室町時代後期以降暫くは能として演じられず、素謡スウタイとしてのみ残されてい
たと推定されている。シテは皇女と云うことから品のある増女ゾウオンナや十寸髪マスカミの面
を懸けたり、或いは中年の深井フカイの面、又は少女の小面コオモテを用いることもある。ツレ
は蝉丸と云う瞼が横一文字に切ってある、盲目の専用面を用いる。このシテとツレは両
シテとも云われ、特に小書演出でその傾向が強くなり、ときには蝉丸をシテにする演出
もある。小書「替之型カエノカタ」では逆髪は黒頭クロガシラに緋大口ヒオオクチ又は緋長袴ヒノナガバカマ
の姿で道行を橋掛で舞う。「琵琶之会釈アシライ」では蝉丸が扇を琵琶に準ナゾラえて弾く型
が入る。
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