0308猩々
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈猩々ショウジョウ〉
「猩々」
 中国で、想像上の怪獣。体は狗イヌや猿の如く、声は小児の如く、毛は長く朱紅色で、
面貌人に類し、よく人語を解し、酒を好む。オラン-ウータンのこととも。
 
「猩々」
 能の曲名。五番目物(切能物)。作者不詳。孝子の説話に基づくものと考えられる。
 中国楊子ヨウズの里に住む高風コウフウ(ワキ)が登場、親に孝行のため、ある夜、市で酒
を売れば富貴となるとの夢を見たと述べる。そして潯陽シンヨウの辺ホトリの市で酒を売るう
ち、秋風と共に猩々(シテ)が現れて舞(中之舞チュウノマイ)を舞い、酌んでも尽きぬ壷を
高風に与え、酒に酔って伏してしまう。
 
 少年姿の猩々が妖精の如く楽しげな舞を見せ、祝言物の趣を持つ能。古くは前後の二
場に分かれていたが、後に前場を省略して短い小品に改作された。シテは、赤い色で微
笑んだ表情の猩々と云う専用面を懸ける。そして赤頭アカガシラを被り、赤地箔アカジハクの上
に赤地唐織カラオリを壷折ツボオリの姿に着、緋大口ヒオオクチを佩くと云う、全身を赤尽アカズクメの
扮装をする。下端サガリハと云う、律動的リズミカルな前奏の囃子に乗ってシテが登場し、中之
舞を舞うが、これを特殊な足遣いをして舞う。「乱ミダレ」にする演出がある。「乱」は、
酔って波の上で舞い遊ぶ表現で、流れ足・乱れ足・ヌキ足などの型が入る。現代では「乱
」を舞うことが多く、その場合、曲名も『猩々乱』又は『乱』とし、独立した別の曲と
して扱うことになっている。『乱』の演出は流儀によって多少の相異があるが、幕の内
から赤地の扇を開いて出る方法は、この能独特の派手な雰囲気を作り上げる効果を持つ。
二人の猩々が登場する『乱』の演出は各流にあり(流儀により、双ソウ之舞・和合ワゴウ・和
合之舞・二人乱ミダレなどと云う)、七人が登場する演出(七人猩々)もある。更に壷の作
り物を出す演出(置壷オキツボ・壷出ツボダシ・七人猩々)もある。観世流では前場・後場があ
り、後場には四人乃至六人のツレが登場し、大瓶の作り物を用いる『大瓶タイヘイ猩々』が
ある。なお「乱」の舞を舞う能は、他に『鷺』がある。
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