0304佐渡狐
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈佐渡狐サドギツネ〉
「狐」
 イヌ科キツネ属の哺乳類。頭胴長70p、尾長40p程。イヌに似るが、体は細く、尾が
太い。耳は大きく、顔は尖る。毛はいわゆる狐色で、飼育品種には銀、黒などもある。
北半球の草原から森林に広く分布、主に夜行性。餌はネズミ・小鳥などで、植物も食べ
る。わが国では人を騙ダマすとされ、狡ズルいものの象徴にされてきたが、稲荷神の使い
でもある。毛皮用に飼育される。なお、広くはキツネ属及び近縁の総称。きつ・くつね。
 
「佐渡狐」
 狂言の曲名。毎年の嘉例で、越後の百姓が年貢を納めに上京する途中、佐渡の百姓(
シテ)と道連れになる。道中、越後の百姓が「佐渡は離れ島故万事に付け不自由であろ
う」と言い出したのがきっかけで、「佐渡に狐は居ないだろう」「いや、佐渡に狐は沢
山居る」と口論が始まる。二人は互いの所持する刀を賭けて、都に着いたら、奏者(取
次の役人)に判断して貰うことにする。実は、佐渡に狐は居ない。佐渡の百姓は、奏者
に賄賂を使って、狐の体長、眼、口、尾、毛色を教わっておく。年貢上納の後、両人揃
って改めて奏者の前に出、裁断を仰ぐ。奏者が「佐渡に狐は居る」と答えるので、越後
の百姓は驚いて、佐渡の百姓に狐の姿形スガタカタチを次々に問う。佐渡の百姓は、疎ウロ覚え
ながらも答え仰せて、争いに勝つ。退出してからも、越後の百姓は気が収まらない。が、
鳴き声について聞き忘れたことを思い出し、佐渡の百姓を呼び止めて問い詰める。佐渡
の百姓は答えられず、この勝負は逆転、刀を巻き返した越後の百姓を佐渡の百姓が追い
込んで留トメ。
 
 脇狂言・百姓物。大蔵・和泉両流共構想は同じ。ただ、留で苦し紛れに発する鳴き声が、
大蔵流は「東天紅トウテンコウ」(鶏)、和泉流は「月星日ツキホシヒ」(鴬)となる。一般に脇狂
言は、天下泰平を言祝コトホぐなどの祝言性を主眼にし、劇的対立や笑いの要素よりも、歌
舞中心になる。年貢上納のために上京する百姓を描いた一連の狂言(『筑紫奥ツクシノオク』
『餅酒モチサケ』『三人夫サンニンブ』など)も例外ではない。その点、劇的葛藤のうちに人間
の心に潜む醜さや弱みを衝いている本曲は、優れて現在的・普遍的価値を有し、脇狂言と
しては異色である。
[次へ進む] [バック]