0301西行桜
参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
〈西行桜サイギョウザクラ〉
「桜」
バラ科サクラ属の落葉高木又は低木の一部の総称。同属でもウメ・モモ・アンズなどを
除く。中国大陸・ヒマラヤにも数種あるが、わが国に最も種類が多い。園芸品種が非常に
多く、春に白色・淡紅色から濃紅色の花を開く。八重咲きの品種もある。古来、花王と称
せられ、わが国の国花とし、古くは「花」と云えば桜を指した。材は均質で器具材・造船
材などとし、また、古来、版木に最適とされる。樹皮は咳止薬(桜皮仁)に用いるほか
曲物マゲモノなどに作り、花の塩漬は桜湯、葉の塩漬は桜餅に使用。また桜桃オウトウの果実は
食用にする。ヤマザクラ・ソメイヨシノ・サトザクラ・ヒガンザクラなどが普通。
「西行桜」
能の曲名。四番目物。世阿弥作。『玉葉集』『山家集』を典拠とする。
まず後見は舞台中央後方に、桜花を付けた山の作り物を出す。ワキ(西行)が登場す
る。都の西山、西行の庵の桜は今を盛りと咲き誇る。都の下京に住む男(ワキツレ)が
同行者達(ワキツレ数人)を伴い、花見にと庵を訪れる。能力ノウリキ(アイ)は柴垣の戸
を開き案内する。西行も共に花を眺めるうち、夜に入ると白髪の老桜の精(シテ)が現
れ、西行の歌を口遊クチズサむ(ワキツレは退場)。都の桜の名所を述べ(クセ)、老木の
精は静かに舞(序之舞)を舞い、夜明けには消えて行く。満開の夜桜の下モトで老体の舞
を見せ、春を惜しむと云う能である。
賑やかな花見客達が帰った後、静かに対座する西行と老木の精、その静謐な舞台が印
象的である。シテは太鼓入り序之舞を、常は扇で舞うが、「杖之舞」その他の小書演出
により、杖を持って舞う方法もある。また、最後の場面(キリ)でシテは先に幕に入り、
ワキがこれを見送り留拍子トメビョウシを踏む小書(脇留ワキドメ)もある。シテは皺尉シワジョウ・
舞尉マイジョウ・石王尉イシオウジョウなどの面を懸け、風折カザオリ烏帽子を着け、色大口を佩き単
狩衣ヒトエカリギヌを着ると云う、格調高い出で立ちである。類曲に『遊行柳ユギョウヤナギ』(観
世信光作)があり、その後シテは『西行桜』と同じ扮装で、朽木の柳の精となる。右二
曲と同じく男性で太鼓入り序之舞を舞う曲に『雲林院ウンリンイン』『小塩オシオ』があり、この
二曲の主人公は在原業平である(後シテの面は中将など)。これらは四番目物の中でも
優雅な能で、男姿ながら鬘物カズラモノに近い趣を持つ。
[次へ進む] [バック]