0201杜若
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈杜若カキツバタ〉
「杜若」
 アヤメ科の多年草。池沼や湿地に生じ、高さ約70p。葉は広剣状。初夏、花茎の先端
に大形の花を開く。色は通常紫又は白。大きな3枚の外花被片には中央に1本の白線が入
る。
 
「杜若」
 能の曲名。三番目物(鬘物カズラモノ)。世阿弥作とも伝えるが未詳。『伊勢物語』を典
拠とし、「唐ころも着つつ馴れにし妻しあれば遥々来ぬる旅をしぞ思ふ」を引用する。
 旅僧(ワキ)一人、都を経て東へと向かう。三河の八橋ヤツハシまで来ると、折しも沢辺
には杜若が満開である。一人の女性(シテ)が現れ、僧に呼び掛ける。そして僧の問い
に答えて、八橋の謂れ、在原業平のこと、「唐ころも」の歌などについて語り、僧に一
夜の宿を貸す。やがて冠カムリ・唐衣の姿に着替えて再び現れ、杜若の精と名乗る。聞けば
高子タカコの后の御衣(長絹チョウケン)と業平(初冠ウイカムリ)であると云う。こうして形見を身
に着け、昔男の東下りの物語を語り(クセ)、舞(序之舞)を舞い、夜明けと共に消え
失せる。
 
 丁度五月の季節のように、明るく華麗な趣の能である。杜若の精が業平に同化して舞
を舞うと云うのが主題だが、それに高子の后、里の女、歌舞の菩薩ボサツが重なり、主人
公としては五重の印象イメージがあって複雑である。中入ナカイリを持たない一場物で、途中、
後見座へくつろいで、初冠と長絹とを着ける。昔男が伊勢・尾張を経て、三河へ至る旅を
描くクセは長く、この能の中心部をなし、二段グセと呼ばれる形式を採る。『杜若』は
舞の部分に重要性を持たせるため、小書コガキ演出により、特色のある舞が考案されてい
る。例えば序之舞が常と少し変わり、橋掛で沢辺に映る自らの姿に見入る型が入る方法
(恋之舞・沢辺サワベ之舞)は真に風情がある。また、イロエ・クリ・サシ・クセを省略する
方法(恋之舞)は短縮化の著しい例であるが、その他の演出でも、多少の短縮化の施さ
れることがある。男性の姿で舞うと云うことから、真の太刀を佩く場合(恋之舞・素囃子
シラバヤシ・盤渉バンシキ)もある。初冠は梅花を挿したり藤花を挿したりすることもあり、そ
のとき、日蔭の糸を垂らし、色彩的に美しい。このように、観客の耳目に直接訴える要
素の濃い能である。
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