0106善知鳥
参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
〈善知鳥ウトウ〉
「善知鳥」
チドリ目ウミスズメ科の海鳥。大きさはハト位。背面は灰黒色、腹部は白色。顔には
2条の白毛を垂れる。生殖時期には上嘴基部から角状突起を生ずる。北方海洋の島で繁
殖し、冬期本州の海上にまで南下する。子を捕られると鳴くと云う。
「善知鳥」
能の曲名。四番目物。世阿弥作とも伝えるが未詳。「烏頭」とも。当時の伝説を素に
して作られた能。
陸奥ミチノク外の浜へと向かう一人の旅僧(ワキ)が途中、越中の立山へ立ち寄る。する
と一人の老人(前シテ)が僧に呼び掛け、外の浜の妻子に言伝てを頼み、着ている衣の
片袖をもぎ取って僧に渡す。陸奥へ下って行く僧を見送り、老人もどこかへ立ち去る(
中入)。猟師の妻(ツレ)と子供の千代童チヨドウ(子方)の待つ外の浜へ僧が訪れ、形見
を届ける。笠を手向けて弔うと、猟師の霊(後シテ)が現れ、様々な鳥に責められる地
獄の苦しみを見せて消え去る。殺生の罪により地獄へ堕ちた猟師を描き、また親子の情
愛をも表す能。
劇的な構成と、深刻で悲惨な主題とを持つ。独特の要素の可成り多い能である。まず
前場では、シテは橋掛一ノ松まで出るが、舞台には入らず、其処から別れた僧をじっと
見送って中入をすると云う、珍しい演出が行われている。着ている上着(水衣ミズゴロモ)
の左袖を自ら引きちぎって僧に渡すと云うのも、他に例を見ない。後シテが鳥の羽で作
った腰蓑を着けて出る、無気味な姿も特色と言える。正面先に置かれた笠が手向けの形
見でもあり、後半では、シテが杖で打ち据える獲物に見立てられもする。本曲のカケリ
は特殊なもので、鳥を追う動作に終始し、これを仕止めるところで終わる。キリでは、
鳥の嘴クチバシや磨ぎたてた爪で責められる具体的な表現など、能には珍しい陰惨な場面が
ある。そしてシテは猟師の霊でありながら、善知鳥・鷹を始め、怪鳥や化け物の鳥にも変
化する。 キリの詞章が全く別のものに変わる「外之浜風」の小書演出(観世流)があ
る。なお、本曲と同趣の曲に『阿漕アコギ』がある。
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