0103芦刈
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈芦刈アシカリ〉
「葦・蘆・葭アシ(ヨシのこと)」
 イネ科の多年草。各地の水辺に自生。世界で最も分布の広い植物の一。地中に扁平な
長い根茎を走らせ大群落を作る。高さ約2m。茎に節を具え葉は笹の葉形。秋、多数の細
かい帯紫色の小花から成る穂を出す。茎で簾スダレを作る。
 
「芦刈」
 能の曲名。四番目物。世阿弥作と云われる。古くは『難波の芦』又は『難波』とも云
った(現行曲『難波』とは別作品)。『大和物語』『源平盛衰記』『拾遺集』『古今集
』序を素材とする。
 ある貴人に仕える男(ワキ)は、その若子の御乳人オチノヒト(ツレ)の供をし、従者達(
ワキツレ)と共に、津の国難波の浦へ向かう。難波へ着いた一行は、御乳人の夫、日下
左衛門クサカサエモンの行方を里人(アイ)を尋ねる。其処へ若い芦売り男(シテ)が現れ、芦
のこと、御津ミツのことなどを語る。そして、猟師達の網を引く様、また少女達の花笠の
舞などを真似て見せる(笠之段)。何れも難波津の春の風物である。御乳人に芦を持っ
て近付いた男は、それが別れた妻とと知り驚き立ち去る。妻は夫を追い掛け、二人は再
会する。やがて人々に祝福されて男は、颯爽サッソウと舞(男舞)を舞い、妻の一行と共に
都へ帰って行く。貧しさ故に、一旦離れ離れになった夫婦の再会を描き、それに難波の
春と芦売りの風情を添える能である。
 
 芦を勧め場面、扇で舞う笠之段、作曲上特色を持つ物尽くし風の、笠で舞うロンギ(
笠之段に含める)、夫婦の巡り逢い、和歌の徳を述べるクセ、男舞と、多彩な趣を持つ
構成である。芦売りが妻の前まで行き、その顔を見た瞬間、芦を投げ落とすようにして
無言で足早に立ち去り、小屋に隠れる場面がある。能の表現としては珍しく、また優れ
た演出である。茲では、本来小屋の作り物を用いていたが、現在では小屋を出さぬ演出
が多い。従って、橋掛へ退いたシテの処へ行って声を掛ける方法を採る。シテは芦売り
の渡世の男として、前半は白大口シロオオクチ・水衣ミズゴロモ姿であるが、後にワキに促されて
「物着モノキ」をする。即ち、侍烏帽子サムライエボシを被り、掛直垂カケヒタタレを着替え小刀
チイサガタナを付ける。
[次へ進む] [バック]