0102阿漕
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈阿漕アコギ〉
「赤秀アコウ(アカホ)」
 クワ科の亜熱帯高木。高さ約20m、幹の周囲から気根を出す。葉は楕円形で厚く、平
滑、長柄がある。春、枝や幹にごく短い柄の淡紅色の果実を生ずる。西南日本の暖地海
辺に自生。愛媛県三崎町と佐賀県肥前町のアコウ樹林は北限分布地として天然記念物に
指定。
 
「阿漕」
 能の曲名。四番目物。世阿弥作とも伝えられるが未詳。「阿古木」とも。『古今和歌
六帖』の「逢ふことをあこぎが島にひく網の度重ならば人も知りなむ」の歌による伝説
を素に、『源平盛衰記』をも素材とする。
 ある秋の頃、九州日向の男(ワキ)が伊勢神宮へ赴くため、舟で阿漕が浦へ着く。其
処へ釣竿を肩にした猟師(前シテ)が現れ、旅人の問いに任せて阿漕が浦の謂れを説く
(語り及びクセ)。阿漕と云う猟師が禁断の海で網を引くこと度重なり、発覚して殺さ
れたと云う。やがて漁火イサリビの影仄かな海辺に、網を手繰り寄せると見る間に老人は、
暗い海へ消え去る(中入)。旅人の弔いの声のうち、四手網を持った阿漕の霊(後シテ
)が、憔悴した姿で現れ、網を引く様などを見せ、殺生禁断の海で漁労の罪を犯し、地
獄へ堕ちた苦しみを訴え、また波の底へ消えて行く。和歌を主題としていることが、こ
の能を暗い殺伐とした雰囲気から救っている。
 
 後場の、網の様子を探ったり魚を捕ったりする動作(立回り又はカケリと呼ばれる)
が、この能の眼目で、一番の見所である。微妙な面の動かし方、手の扱いなどに、魚へ
神経を集中させる男の姿が描かれる。また、前場の急な疾風と共に竿に付けた網をさっ
と手繰る型も、一つの見所である。ワキを着流キナガシ姿の僧にする場合もある。後シテは
痩男又は河津カワヅなどの面に水衣ミズゴロモ、そして腰蓑を着ける。
 なお同趣の能に『善知鳥ウトウ』が、また殺生の罪を説く曲には、他に『鵜飼ウカイ』があ
る。
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