0101葵上
 
                    参考:小学館発行「万有百科大事典」ほか
 
〈葵上アオイノウエ〉
「二葉葵・双葉葵フタバアオイ」
 ウマノスズクサ科の多年草で、山地の林下に生える。地下茎から出る短い地上茎に2
枚の心臓形の葉を付ける。春に紅紫色鐘状の花を着ける。古来賀茂神社の葵祭事に用い
た。徳川家の紋所は本種の葉を組み合わせたもの。
 
「葵上」
 能の曲名。四番目物。世阿弥以前に作られた作品に世阿弥が改修を行ったものと推定
される。出典は『源氏物語』葵アフヒの巻。主人公の六条御息所は前東宮の妃、東宮と死別
の後源氏と関係を持つ。舞台正面先には、縫箔ヌイハクの小袖が置かれる(「出小袖ダシコソデ
」と云う)。葵上が病を臥す形である。処は葵上の実家、左大臣邸。朱雀院スザクインの臣
下(ワキレツ)に促された照日テルヒの巫女(ツレ)の占いの梓アズサの弓の音に惹かれて六
条御息所の生霊イキリョウ(シテ)が上臈ジョウロウの姿で登場、過ぎた昔の華やかさを偲びつつ
恨み事を述べる(クドキ)。やがて葵上の枕元に立ち恨みの心を表し、消え失せる。臣
下は左大臣邸の者(アイ)に横川小聖ヨコカワノコヒジリ(ワキ)を迎えに行かせる。御息所の
生霊が鬼女の姿で再び登場、病床に迫るところを小聖に祈られ去って行く。
 
 前半のシテの懸ける面は泥眼デイガンと云い、眼尻に金泥が施してあり、気品と妖気と
を漂わせる。気高い女性から後半の怨霊へと変わるところ、普通は物着モノキと称して後見
席で扮装を替えるが、小書コガキが付くと、流儀により一旦中入ナカイリをして後シテとして
登場する演出もある。世阿弥時代には、シテ登場の場面で、御息所の乗る車の作り物を
橋掛に出し、車添えの女性(ツレ)が付いた演出も行われていた。現在、小書により橋
掛一ノ松の勾欄を車の轅ナガエと見立て、これにもたれて泣く型を残す流儀がある。これ
は右の名残であろう。また、御息所の生霊が巫女に乗り移った徴シルシにクドキをシテとツ
レとで連吟レンギンする方法、出小袖を怨霊が持ち去ろうとする方法、小聖が一旦怨霊を見
失って祈り続ける方法、怨霊の鬘カツラに長い髪文字カモジを着ける方法、その際に緋ヒの長
袴を佩いて出る方法など、小書により様々な変わった演出が採られる。このような場合、
部分的に削除カットされ時間が短縮される。抒情的な文章、特色のある作曲と型付とにより
上演頻度の最も高い人気曲の一つで、特に大掛かりな催しに上演されることが多い。な
お、六条御息所を主役とした能には、他に『野宮ノノミヤ』がある。
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