30 盆栽
 
                 盆栽
 
               参考:小学館発行「園芸植物大事典(用語・索引)」
 
 わが国において「盆栽」の文字を初めて使用したのは,入元の経歴を持つ室町時代初
頭の禅僧古剣妙快といわれています。その漢詩巻「了幻集」に載る一詠物には,「盆栽
木犀モクセイ持ちて来る」との詩序が付けられ,他の一首は詩序に「遠寄官窯花瓶カヘイ」(持
ち込んだ元朝御用窯の花瓶カビン)の文字がみえます。また,その後の江戸時代初期,漢
詩文に長じた鳥山芝軒シケンも,その詩巻「芝軒吟唱」に「盆栽」の文字を用いました。し
かし,江戸初期の頃までは,「盆山ボンサン」(石付盆栽)と「鉢木ハチノキ」(石を付けない
盆栽)の呼称が通用し,盆栽という呼称が用いられませんでした。ところが中期に到っ
て,当時の高識者や園芸界の好事家コウズカなどの間に広く行き亘った清朝初期の陳扶揺「
花鏡カキョウ」との刻書「秘伝花鏡」の紙面に載る盆栽の文字が大きく作用して,にわかに,
前記の旧称その他と入れ替わりました。
 最近では,鉢に植えられた植物の持つ性状そのものを観賞する場合を「鉢植え」と呼
び,盆上の草木によって自然の佳景から受ける豪壮・繊細・佳麗などの感興が表現され
ている場合を「盆栽」と名付けて区別しますが,その種の社会通念が定着したのは大正
年間でした。
 
[整姿形]
 最近の盆栽は,主幹の形状・数・その他により,通常次のように分けられます。
@直幹
 大地にそそり立って枝を張る,豪壮な独立樹の姿を表現したものです。
A斜幹
 1本の幹が一定方向の常風や強光などににって斜立する有様を型採ったものです。そ
の中で,方向の定まった常風による造形を想像させるものを特に吹流しと名付けますが,
この場合には必ずしも単幹仕立てに拘泥しません。
B模様木(蟠バン幹)
 1本の幹が厳しい自然条件に抗して,前後左右に曲がりながら,力強く立ち上がる模
様を写したものです。
C懸崖ケンガイ
 断崖に懸かる樹の幹先が,年を経て下垂する姿を盆内に具現したものです。
D文人木
 一見斜幹・模様木などに類しますが,全体として繊細洒脱シャダツな姿態を呈し,侘び寂
びの風趣を醸しているものです。
E株立ち
 一つの株元から数幹が立ち上がる様式です。幹数の少ない場合を特に双幹(ただし五
幹まで)と呼びます。
F寄せ植え
 数本ないし数十本の樹を木立ちに見立て,一盆中に配植したものです。
G根連り
 外見は寄せ植えに近似しますが,積雪の強圧や風倒などによる造形をかたどり,横に
伏せた1木の枝数本を,新たに幹として立たせたため,各幹が地下部で連なっているも
のです。各幹の均衡が保ちやすいです。
H根上り
 海浜河岸などに立つ樹の根本が酷く露出している様相を表現したものです。
I石付き
 岩上で厳しく生き続ける姿を造形したものであり,その中で,根が岩上の僅かな培養
土中に留まる場合を「岩上樹」,根先が鉢内の培養土中に達する場合を「抱岩樹」と区
別します。
Jその他の様式
 草本の性状を楽しむ草物盆栽,極端に小さく仕立てる小品盆栽などがあります。また
松伯盆栽,葉物盆栽,実物ミモノ盆栽などにも大別されます。
 
[培養]
 盆植の草木は,種類毎に,またそのときどきの生育状況などによっても,日照・温度
(特に夏と冬)・湿度(空中と培養土中)・通気降水などの諸条件について,適応の幅
が異なります。その点から,主要な項目を略記する程度にとどめます。
△置き場所
 地方により,また種類毎の特性,生育状況などに応じて,置き場所の状態を調整しま
す。その点で,本州の関東地方以西の例を採りますと,あらゆる種類を通じて春秋の陽
光には晒しますが,夏期に気温と日射が著しく高まる地帯では,強光によく耐えるマツ
・ウメなどは別として,ウメモドキ,カエデ,エゴノキなど,いわゆる雑木類の多くは
幾分日射を遮って葉焼け枝枯れを防いで下さい。逆に冬期の低温の厳しい地域でも,マ
ツ,ミヤマビャクシン,ケヤキなどの盆樹そのものは露天の寒気に晒して支障はないも
のの,培養土や軟質(陶器など)鉢の器体中に含まれる水分が凍結しますと鉢を損傷す
るおそれがあるため,多少防寒上の措置を採って下さい。耐寒性が可成り低いザクロ,
クチナシなどは,建造物南側の軒下,片屋根の簡単な施設下,盆栽小屋内などに取り込
みます。
△盆栽棚
 盆栽は通常,地上80p前後の棚板上に揚げて,雨滴による泥の跳ね上がり,病害虫の
侵入,雑草の混入などを防ぎ,通風をよくし,また手入れ上の利便を図ります。棚板は
木材を最良としていますが,近年は多少は欠点はありますがスレートやプラスチックも
供用されています。
△培養土
 盆樹を通常の畑土庭土で植えますと大抵の場合,排水不良(目詰まり)による根腐れ
を起こします。この点で培養土の具備すべき状態は,排水性と保水性の背反する二律を
十分に満たす意味から,良好な団粒構造です。そのため,一般には,関東ローム層から
採掘して篩い分けるいわゆる赤玉土(概して中粒程度)を常用していますが,ほかに各
地に産する山砂(富士砂,浅間砂,桐生砂,白川砂,日向砂),北関東の底土である鹿
沼土などを適宜使い分けて,初期の状態を作り出します。なお,伸長を抑えて強剛に生
育させるマツ,ミヤマビャクシンなどには通常,赤玉土に2〜3割の富士砂を混ぜ,一
方,生育をよくし,また着花・結実の維持向上を求める多くの広葉樹については,赤玉
土に1〜2割の腐葉土を混入します。
△植替え
 盆内の土は,降雨,潅水,凍結などによって団粒構造が壊され,肥料成分が溶脱し,
また根の吸収によって健全な生育に欠かせない微量要素も低減しますので,そのような
欠点を補完する意味から,種類毎の適期(通常芽生え直前ないし落花直後)を外さない
で,針葉樹は数年毎に,広葉樹は毎年ないし隔年に,用土の一部分を入れ替えて下さい。
その際,鉢土の周辺と底の部分を2分の1(若木)ないし3分の1(老木)程度突き崩
し,また露出した根のうち,太い根を重点に切り詰めて修復による根の活性化を促しま
す。なお,作業後は短期間,日射と通風を制限して保養させます。
△施肥
 培養土中の肥料成分は,吸収,溶脱,不活性化,気化などによって減少しますので,
三要素を主とし,場合によっては微量要素を加えて保全します。その時期と量は,生育
開始期に当たる春先(植物の種類によっては落花直後)に重点を置き,以降,生育状況
その他に応じて追肥を施して下さい。肥料の種類としては通常,油かす,骨粉,特殊加
工した一部の化学肥料などの緩効性肥料を選んで,根の肥料焼けを抑え,また肥効の持
続を図って下さい。
△潅水
 鉢内の乾き具合は季節,天候に大きく左右され,また植物の健否,生育状況,葉面積
などによって差があります。要するに潅水は一鉢毎の乾き具合に留意しながら,「乾い
たら十分に注ぐ」との原則を定めて,頻繁な潅水による過湿の害,逆に過度の水切れに
よる葉焼け,枝枯れ,枯死を避けます。なお,花芽分化期の直前には乾かし気味に保ち,
また極端な乾天や雨を伴わない強風直後には「葉水」を与えて下さい。
△整姿
 盆栽の品格を上げるためには,休眠期を選び,また花芽分化以前を避けるなどして,
幹や枝の姿を剪定センテイ,誘引,針金掛けなどによって大きく整え,また生育中の芽摘み,
葉刈り,徒長枝の間引きなどによって,枝葉の細密化,均斉化を図って下さい。
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