28 古典園芸植物とは
 
             古典園芸植物とは
 
               参考:小学館発行「園芸植物大事典(用語・索引)」
 
 古典園芸植物とは,日本で古くから栽培,観賞されてきた園芸植物の総称で,草花,
花木,ラン類,ヤシ類,シダ類など多岐に亘っています。古くから愛好されてきただけ
に,多くの園芸品種が分化しており,その一つに園芸品種名(雅名,源氏名)が付され,
同好の士も多いです。ただし,タチアオイのように多くの変わり物が分化していても,
特に園芸品種名が伝えられていないものもあり,またタンポポにように文献的にかつて
の愛好熱を辿れるだけで,現在の栽培状況の分からないものもあります。
 こうした伝統的な園芸品種の起源は,その殆どが江戸時代に隆盛をみた園芸文化に求
めることができ,その当時刊行された多くの園芸書にそれらの記述があります。このこ
とは安定した社会が園芸文化興隆の成立条件の一つであることを物語っています。
 古典園芸植物の成立条件として,文化的社会的要因のほかに植物自体の特質も無視す
る訳にはいきません。対象となっている植物は,当然ながら日本自生のものが多いです
が,中にはボタンのように江戸時代以前に外国から渡来したものが,後に当時の趣味に
マッチして発達した例もあります。何れにしても葉形,葉色,斑フ入り,花形,花色,草
姿などに変化や変異の出やすい,ということが大きな特質です。このような変化や変異
は,野生下でも見られますが,人為的に選抜を繰り返したり,積極的に実生ミショウを行っ
て遺伝的変化を増幅させたり,ときに交雑によって異なる形質を導入させたりして,獲
得されました。
 獲得された多くの変異品を観賞するに当たって,伝統的に観賞の要点が定められてい
ることも多く,独特の形容語が用いられることがあります。このことは,逆に仕立て方
(作り方)とも関連し,より良いものを最良の状態で維持するために,子細な栽培・管
理方法が伝えられている場合が多いです。ものによっては,植込み容器(鉢)まで観賞
の対象とされます。
 ところで,古典園芸植物を支える文化的特質の一つに「収集」ということが挙げられ
ます。より多くの変わり物を楽しみたいという欲求ですが,それが希少品であればなお
のこと良いという状況を生み出したことも否めません。こうしたことを踏まえて,園芸
品種の番付表である「銘鑑メイカン」が発行され,収集品を競い合ううちはよいでしょうが,
次第に収集熱の高騰に繋がり,投機の対象にまでなってしまうのは,時代や内外を問わ
ぬ皮肉な事実です。蓋し,それは決して園芸植物への正常な接し方とはいえないでしょ
う。然も忘れてはならないのは,希少品の実利的な価値というものは,その希少性を認
める需要がある場合に限られるということです。また,手軽に変異品を求める余り,野
生品を乱獲することは,自然の有限性を考えたときに好ましいことではありません。既
に栽培下にあるものを増殖し,その中で変異品を見出していく努力が,これまでにも増
して重要視されなくてはなりません。
 マツバランやイワヒバなど,決して日本特産の植物ではありませんが,葉形や葉色,
草姿の僅かな変化に注目して,それを一つの園芸文化に育て上げてきましたのは日本だ
けであると言っても過言ではありません。古典園芸植物は,広い意味での日本文化の特
質を理解する上で,欠くことのできない要素の一つであるとも言えましょう。
 
〈主な古典園芸植物〉
 
△草本
 アサガオ,オモト,カキツバタ,ハナショウブ,イエギク,ギボウシ,サクラソウ,
 シャクヤク,イセナデシコ,セキチク,トコナツ,フクジュソウ,サイシン,ハラン,
 タンポポ,セキショウ,ツワブキ,タチアオイ
 
△花木
 ウメ,カエデ,サクラ,カラタチバナ,マンリョウ,ヤブコウジ,ナンテン,ムクゲ,
 ボケ,ボタン,ツバキ,ツツジ,サツキ,ハナモモ,ハナザクロ,マンサク,ロウバ
 イ,クチナシ,サザンカ,センリョウ
 
△ラン類
 スルガラン,イッケイキュウカ,キンリョウヘン,シュンラン,カンラン,ホウサイ
 ラン,セッコク,フウラン,エビネ
 
△ヤシ類
 カンノンチク,シュロチク
 
△シダ類
 イワヒバ,マツバラン,ヒトツバ,ノキシノブ
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