29 帰化植物とは
 
                帰化植物とは
 
               参考:小学館発行「園芸植物大事典(用語・索引)」
 
 帰化植物とは,外国から侵入してきて野生化に成功した植物のことです。それだけに
帰化植物と呼ばれるグループには,自ずと生活力や分布力が強く,雑草的な性格を持ち
合わせたものが多いです。
 帰化植物という言葉が,何時の時代から用いられたかは定かではありませんが,文献
上は明治21年(1888)頃から登場してきます。
 さて,この帰化植物という異国の雑草は,一体何時頃から侵入し始めたのでしょうか。
これは非常に興味深くも,実に難しい問題です。一般には,文献上に侵入した記録が残
されている時期,例えば安土桃山時代以後のものを一応帰化植物として扱うことにして
います。
 現在では極めて大まかな侵入傾向しか分かりませんが,明治時代にはほぼ100種に過ぎ
なかったものが,大正時代には150種に増え,第二次世界大戦の末期には400種を超え,
最近の調査では700種を遥かに超える勢いです。種類数を数える場合,何時どの段階で帰
化植物として認定するかが難しいこととなります。
 帰化植物が定着するためには,その生育に好ましい環境,例えば裸地といったような,
本来の自然植生を人為的に破壊した場が必要となります。裸地にはいろいろの雑草が侵
入しますが,特にその傾向が著しいのは新しく渡来した雑草です。渡来した雑草はまず,
裸地を本拠として繁殖,分布を開始します。このように帰化植物の侵入と生育の状況は,
自然破壊の程度を示す一つのインジケーターとさえいわれています。
 戦後になってにわかに帰化植物の存在が注目され始めたのは,世界各国との活発な交
流によって,その侵入が激しかったせいもありますが,寧ろ問題は都市の拡大や開発に
伴う宅地の造成など,帰化植物の絶好の生育環境を提供したことにあるといえるでしょ
う。一度定着に成功した渡来植物は,次から次へと人為的に自然破壊された弱い部分へ
進出していきます。大都市周辺の雑草の80%は,帰化植物によって占められているとの
調査結果もあります。
 
[帰化植物の区分・特徴・原産地]
 通常帰化植物と呼ばれていますが,その内容(区分)は様々です。
△自然帰化植物
 全く気付かない間に侵入し,帰化状態に達したものです。当然にその侵入の時期は明
らかでないものが多いです。
△逸出帰化植物
 種々の目的のもとに輸入され,栽培されていた有用植物が,栽培状態から脱して野生
化したものです。従って渡来の時期が比較的はっきりしており,人為的帰化植物とも呼
ばれます。
△仮住(生)帰化植物
 うまく侵入,発芽に成功したものの,日本の気候・風土などに順応できず,枯死した
り結実できなかったりで,半年から精々2年位のうちに自然消滅してしまうものです。
侵入の機会がある度に,一応は生育状態に至りますが,一時的で短期間のうちに消え去
ってしまいます。
△予備帰化植物
 侵入後,既に限られた地域では帰化状態になっいるが,未だ一般に広く分布をしてい
ないものです。準帰化植物と呼ぶこともあります。
△史前帰化植物
 文献上の記録がなく,有史以前に渡来,帰化したと考えられるものです。一般に,単
に帰化植物という場合には,記録の明らかなものを指し,史前帰化植物は含めません。
 
 帰化植物に共通する特徴は,貧栄養の痩せた土地でも十分に生育できること,繁殖力
や生活力が強いこと,種子を非常に多量に生産すること,極めて盛んな分布力を持つこ
と,日当たりのよい陽地を好むものが多いこと,比較的一年草,二年草が多いことなど
を挙げることができます。原産地を種類数の多いものから順に並べますと,ヨーロッパ,
北アメリカ,アジア,南アメリカ,熱帯アメリカ,中国及びインド,オーストラリア,
アフリカ他となり,殆ど世界各地をカバーします。しかし,これらの原産地から必ずし
も日本へ直接渡来してきたとはいえません。
 例えば欧米の植物の渡来ルートを考えてみますと,凡そ,@北アメリカ原産の植物が,
日本へ直接的に侵入,Aヨーロッパ原産の植物が,日本へ直接的に侵入,Bヨーロッパ
原産の植物が,まず北アメリカに帰化し,北アメリカを中継して日本に侵入,の3通り
があります。ヨーロッパ原産のものが,Aのケースで侵入することは極めて稀で,普通
はBです。そのため中継地が,原産地と誤解されることが多いです。
 このように外来雑草の故郷は様々ですが,今後益々,真の原産地の不明確なものが増
えてくるでしょう。
 植物の帰化活動が盛んになりますと,遂には何処の国に行っても見られる,という雑
草的な植物が現れてくることになります。。
 
[侵入経路]
 侵入経路は多種多様です。侵入をまず始めるところのことを第1次帰化地と呼びます
が,そのようなところとして,諸外国との交通や物資輸入に直接又は間接に関わりを持
つところが挙げられます。即ち港,空港,税関(植物防疫所),農業・園芸試験場,植
物園,薬用その他有用植物栽培試験場,牧場(種畜場),養鶏・養豚場,精米・製粉場,
ゴルフ場,醤油・豆腐工場,毛織物工場,高速道路建設・宅地造成関係の諸施設,動物
園・動物輸入商関係,園芸植物商関係,その他塵芥ジンカイ処理場などがあります。
 中でも港は,歴史的にも一般的な侵入経路で,特に明治維新を境とする近代文明の流
入とともに,異国の雑草等がどんどんやってきました。
 一方,空港はより新しい侵入経路です。勿論登載されてきた荷物に付着したり,紛れ
込んだりして侵入するものが殆どですが,機体や車輪にくっ付いてくる特殊な例もある
ようです。
 第二次世界大戦後は各国との交流増大に伴って,いろいろの変わった侵入経路がみら
れるようになりました。例えば輸入した飼料や穀類,大豆を用いる養鶏・養豚場,精米
・製粉工場,醤油・豆腐工場,羊毛,綿花を扱う織物工場などです。ゴルフ場では輸入
芝に混じって雑草の種子が芽生えます。高速道路や造成宅地の斜面緑化に植え付けられ
た外国産の植物の中に,矢張り雑草が混じって生育していることが少なくありません。
 ところで,このように人間文化の営みに伴って世界を駆けめぐる帰化植物は,ただ雑
草的な存在として厄介なだけでなく,別の問題も引き起こします。例えば,ブタクサや
オオブタクサなどに因って代表される花粉症があります。ブタクサの仲間はキク科であ
りながら風媒花で,その開花期には大量の花粉(直径40μm(マイクロメートル)程度)を撒き散ら
し,人間が吸い込んだ花粉が鼻粘膜に触れますと,一緒のアレルギー症状が起こります。
この症状は喘息ゼンソクに似て,これに頭痛,発熱,鼻汁の分泌を伴います。北アメリカで
は古くからブタクサ花粉症と呼ばれて恐れられていましたが,日本でもブタクサの仲間
が繁茂するにつれて,このような症状に罹る人が増加の傾向にあります。
 
[日本産帰化植物]
 さて,日本で帰化植物といいますと,外国の雑草が一方的に日本へ侵入し帰化してい
るように受け取られがちです。しかし,この逆もあります。日本産の植物が,海を渡っ
てヨーロッパや北アメリカの各地に根を下ろし,帰化に成功しているケースが決して少
なくありません。スイカズラ(北アメリカの一部に完全帰化),クズ(現在のところア
メリカ東南部に限られています),アケビ(北アメリカ東部の道端や人家近くの林など
で完全に野生化),ノイバラ(北アメリカ各地の人家近くの道端,荒地,雑木林などの
近くに生育),オオイタドリとイタドリ(ヨーロッパや北アメリカの各地で野生化)な
どがあります。これらは何れも観賞用に輸出され,その後野生化したもの,いわゆる逸
出帰化植物です。もう少し雑草的な,いわば真の帰化植物と呼ぶに相応しいものとして
は,オニタビラコとホトケノザ(北アメリカ西海岸のオレゴン州辺りの道端や荒地に帰
化),ハハコグサ(オレゴン州やカリフォルニア州南部の森林地帯の草地に帰化),ト
キワハゼ(オレゴン州などの道端や芝生で見られます)などがありますが,ほかに北ア
メリカへ侵入したものとして,ススキやクコを挙げることができます。
 しかしこうした日本の雑草が,海外進出に成功するためには,いろいろの条件があり
ます。その最も重要なものは,気候(温度)的要素でしょう。従って,日本の本州と同
緯度辺りにある地方,例えば北アメリカ東北部などに定着し,帰化しやすいのです。こ
のことは逆に,日本に侵入してくる植物についてもいえます。日本で帰化に成功する植
物の原産地は,気候的に近い地方に集中しているのです。なお,日本から北アメリカ西
海岸へ帰化する植物が多いのは,日本との船舶交通が他の地域よりも比較的盛んなこと
に起因するのでしょう。
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