16a 桜
 
○コヒガンザクラ
 コヒガンザクラ(小彼岸桜)は別名ヒガンザクラといい,長く野生種は不明でしたが,
房総半島,伊豆半島の山地に自生していることが分かりました。エドヒガンとマメザク
ラの雑種といわれています。高さ5〜6mで,大きいものはソメイヨシノに近いです。葉
は楕円形又は広倒卵形で,長さ3〜10p,新葉は伏毛がありますが,成葉では上面の中
肋チュウロク,裏面の脈上を除きほぼ無毛となります。花は3月下旬〜5月上旬,葉が出る前
に咲き,淡紅色で五弁,径2〜2.5p,果実は小さく,ほぼ球形,紫黒色に熟します。花
は小さく枝全体に咲きますので美しく,各地において植栽されていますが,長野県高遠
町の高遠公園は本種の一大植栽地として名高いです。品種に10〜12月と4月に八重の花
をつける十月桜ジュウガツザクラなどがあります。
 
○マメザクラ
 マメザクラは別名フジザクラといい,原産地は日本(関東,甲信,東海道の一部),
高さ4〜5(〜12)m,胸高径10〜12pになります。葉は倒卵形又は卵形で,長さ3〜5
p,新葉は有毛,後裏面は脈上を除いて無毛になります。花は4〜5月に咲き,白色又
は淡紅色,五弁で径2p,果実は広楕円コウダエン形で,長さ6〜8o,紫黒色に熟します。
変種や品種が多く,現在も盛んに新品種が作出されています。本州中部以西には変種の
キンキマメザクラなどが自生します。マメザクラとヤマザクラの中間種とされますコバ
ザクラ(フユザクラ)は秋と春の二季咲き品種です。
 栽培:他のサクラと異なり繁殖は挿し木が容易にでき,翌年開花を期待できますので,
庭植えだけでなく,鉢植え,盆栽に最適です。
 
○ミネザクラ
 ミネザクラは別名タカネザクラといい,本州中部から北海道の山地や高山に分布しま
す。高さ3〜8mの低木又は小低木,葉は広倒卵形から倒卵形で縁には欠刻状の重鋸歯
ジュウキョシがあり,無毛又は疎らに毛があります。花は赤褐色の若葉と同時に開き,1〜3
個を散形状につけ,白色あるいは淡紅色で平開しません。花期は5〜7月,平地では4
〜5月,果実は球形で黒色に熟します。マメザクラに似ていますが,葉縁の鋸歯の先は
明らかな腺センとなり,葉柄ヨウヘイの上部に腺がありますので区別できます。一般にはあま
り栽培されませんが,挿し木が容易で,小物盆栽に適します。
 
○チョウジザクラ
 チョウジザクラは別名メジロザクラといい,本州(関東から岡山県),稀に九州の山
地に自生します。低木あるいは亜高木で高さ3〜6m,葉は倒卵状から倒卵状楕円形,両
面に軟毛があります。花は3〜4月,葉が開く前に2〜3個を散形花序につけて下垂し,
径1.5p,白色,稀に淡紅色で,果実は球形で黒色に熟し,甘味があり食べられます。変
種にオクチョウジザクラ(岐阜県から青森県八甲田山の降雪量の多い地域に分布),オ
オオクチョウジザクラが知られています。
 
○ミヤマザクラ
 ミヤマザクラは別名シロザクラ(白桜)といい,日本,南千島,サハリン,中国東北
部,朝鮮半島,ウスリーの温帯から亜熱帯に分布します。高さ4〜10mの亜高木又は高木
で,葉は倒卵形から菱形状楕円形か長楕円形,縁には欠刻状の重鋸歯があり,両面に伏
毛があります。花は5〜6月,葉とともに開き,総状花序につけ,径1.5〜2pで白色,
果実は球形,紅紫色です。品種としてベニミヤマザクラ,コミヤマザクラが知られてい
ますが,一般にはあまり植栽されません。
 
○カンヒザクラ
 カンヒザクラ(寒緋桜)は別名ヒカンザクラ,ヒザクラ,リュウキュウヒザクラ,タ
イワンカンヒザクラといい,暖地性のサクラで台湾,中国南部,沖縄諸島に分布し,花
の色と形はサクラらしからぬサクラです。高さ5〜7m,枝は太く,葉は質が厚く,長楕
円形から卵形,長さ7〜10pです。花は暖地では1〜2月,東京では3月中旬から下旬,
東北北部では4月末〜5月上旬に咲き,暗紅紫色から桃紅色,径2pで半開(ラッパ状
),葉の出る前に咲きます。沖縄では1月に桜祭りを開催しますが,そのときのサクラ
がカンヒザクラです。寒さそのものよりは,冬の空カラっ風に弱く,関東北部では育ちま
せん。しかし東北地方の日本海側(秋田県,青森県弘前公園など)ではよく開花してい
ます。またヤマザクラ系のサクラとの雑種と考えられますカンザクラ(寒桜)は,開花
期がサクラのうちで最も早く,またフユザクラ(冬桜)と混同されることがありますが,
フユザクラは秋と春の二季咲きです。
 
○オオシマザクラ系のサトザクラの例
 一葉イチヨウ,駿河台匂スルガダイニオイ,松月ショウゲツ,普賢象フゲンゾウ,兼六園菊桜ケンロクエンキク
ザクラ,鷲ワシの尾,旭山アサヒヤマ,鬱金ウコン,御衣黄ギョイコウ,紫桜ムラサキザクラ,関山カンザン・セキヤマ,
天の川,江戸など
 
「サクラの育て方」
○性質
 サクラは日本を代表する花木ですが,現在の用途は主として公園樹として植えられ,
家庭の庭への植栽は少ないです。
 しかし,一口にサクラと言っても品種数は非常に多く,高木になるものから矮性種ま
であります。オオシマザクラ系の関山,普賢象,早咲きで濃紅色の花を下垂させる寒緋
桜などは強健であり,庭木に適しています。また小さな庭や鉢植えですと,フジザクラ
系の各品種が適します。
○苗木の植え付け
 日当たり,水はけのよいところがよく,腐植質に富んだ耕土の深いところが適します。
苗の植え付け適期は10月下旬〜11月と,2月下旬〜開花直前までですが,寒い地方では
春植えがよいでしょう。苗木を購入する際は根部をよく調べ,根頭癌腫コントウガンシュ病や紋
羽モンパ病に冒されていない株を入手します。植え穴は大きめに掘り,完熟堆肥や腐葉土
を十分鋤き込んでから,水はけよく,やや高植え気味に植え付けます。
○剪定
 サクラは剪定を嫌います。枝を折ったり切ったりしますと,切り口から腐敗菌が侵入
し,木質部を冒して木を衰弱させてしまいます。天狗巣テングス病に罹った病害枝を除去す
るとき以外は,なるべく剪定は避けて下さい。
 とはいえ,庭木は全くの放任栽培とはいきませんので,ときには剪定の必要も生じま
す。できるだけ若枝時に,必ず分かれ目で切り,切り口には接ぎ木用の蝋ロウか油性ペイ
ントなどを塗って,雨水が浸入しないよう保護します。整枝は12〜2月に行って下さい。
 日照不足のところや排水不良地では生育が弱く,花つきも悪くなります。適地で元気
に生育していますと,非常に多花性です。花芽は充実した新梢シンショウの葉腋ヨウエキに,夏の
間に形成されます。なお花の咲いた部位からは短枝が伸びて,また花をつけます。
○施肥
 1〜2月に完熟堆肥,鶏糞などを寒肥として与えるとよいでしょう。一般には特別の
痩せ地でない限り,追肥の必要はありません。
○病害虫
 湿地や雑木林の跡地などで発生しやすいのが紋羽病です。この場合は病株は諦アキラめ,
クロールピクリンによる土壌消毒をして下さい。根頭癌腫病も軽微なときは罹病部を切
除し,抗生物質で予防することができますが,病症が進行してしまいますと,株ごと焼
却するしかありません。細枝が箒状に密生し,花が咲かなくなる天狗巣病は,見付け次
第病害枝を切除し,焼却します。害虫ではアメリカシロヒトリやカイガラムシに注意し
て下さい。

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