12 楓
 
                 楓カエデ
 
                  参考:世界文化社発行「世界文化生物大図鑑」
 
[カエデ属]
 カエデ属は,北半球の温帯を中心に120種以上が分布し,このうち日本には20余種が湿
っぽい谷間に自生します。落葉中高木で葉は対生し,葉柄ヨウヘイはやや長いです。春に新
葉が出た直後に散房花序を出し,黄緑色から紅色の小花を多数つけます。秋になれば風
に有翼の種子を散らせます。葉は掌状に深く切れ込むものが多く,カエルの手を連想さ
せるところから,古くは蛙手カエルデと呼ばれ,カエデと略化されました。カエデは昔から
親しまれてきたことから,園芸品種も多く,その代表的な種には次のようなものがあり
ます。
 イロハモミジ:別名イロハカエデ,本州以南の浅い山地において普通見られるカエデ
で,円形掌状の葉は5〜7に深裂し,その大きさには地域差があります。高さは15mに達
するものもあり,オオモミジ,ヤマモミジの2変種があります。
 トウカエデ:中国大陸の南部及び台湾に広く分布し,葉は浅く3裂し,表面は深緑色
で光沢があり,裏面はやや緑白色,葉先は鋭く尖り,縁に小さい鋸歯キョシがあります。翼
果は鋭角に開きます。
 ハウチワカエデ:別名メイゲツカエデ,多くは本州中部以北に分布し,高さ15〜20m,
葉は長さ10〜13pと大きく,1/3位まで浅く7〜13裂し,若葉の表裏は白い綿毛が密生し
ます。和名は,葉の形状が天狗の持つ団扇ウチワを連想させるところから付けられました。
変種に葉がやや小型のエゾメイゲツカエデ,軟毛の多いケハウチワカエデ,黄葉のキハ
ウチワカエデなどがあります。
 イタヤカエデ:国内各地のやや深い谷間,特に寒冷地に自生し,高さ20mに達します。
葉は掌状に5〜7裂し,先端はやや尖った尾状で,表面は毛がなく,裏面は脈に沿って
少し毛があります。葉身は長さ7〜8p,葉柄は5〜6pで,小枝には白皮,赤皮,黒
皮などの色変化があります。イタヤは板矢のことで,石を割るのにその材を打ち込んで
水を掛けるなどして用いられたことからその名がつきました。
 その他:ウリハダカエデ,ネグンドカエデ,ハナノキなどが栽培されています。
 
[カエデの園芸品種]
 現在250余品種が栽培されていますが,園芸的には次のように分類されます。
○イロハモミジ系
 園芸品種の大半がこのグループに入り,葉の切れ込みが特に深いタイプ,二重に切れ
込むタイプ,枝が垂れるタイプ,葉色が春から秋まで赤紅色を続けるタイプ,葉に白や
黄色の不規則な斑フの入るタイプなどに大別されます。代表的なものには,枝垂れ性の紅
枝垂,青枝垂,葉色の美しい大盃オオサカズキ,新出猩々シンデショウジョウ,手向山タムケヤマ,千染
チシオ,土蜘蛛ツチグモ,葉形の風変わりな占の内シメノウチ,腰蓑コシミノ,冬枝も美しい珊瑚閣サン
ゴカク,鬱金ウコンなどがあります。
○ハウチワカエデ系
 代表的な品種には,葉の切れ込みが深く,新枝の美しい舞孔雀のほか,待宵マツヨイ,九
重ココノエなどがあります。
○イタヤカエデ系
 園芸品種は多くありませんが,星宿ホシヤドリ,薄雲ウスグモなどは風変わりな趣がありま
す。
○栽培の概要
 繁殖は実生も可能ですが,園芸品種は挿し木か接ぎ木で,1月下旬が好期です。植え
替えは早春か晩秋の葉のない時期がよいでしょう。病害虫ではうどんこ病,すす病,ミ
ノガの幼虫やダニの発生に注意して下さい。盆栽などの鉢植えの用土は,腐葉土を多め
にするとよいでしょう。
 
「カエデの育て方」
○性質
 西日が当たらない程度の半日陰を好みますが,日照不足ですと十分な紅葉はみられま
せん。湿潤で腐植質に富んだ土質を好みます。
 芽出し時と紅葉時の美しさは出色で,古くから庭園樹として利用されてきました。池
の端への植栽,火障ヒザワりの木(灯篭を設置する際の役木ヤクボク)など,日本庭園の構成
には不可欠です。
○苗木の植え付け
 根巻きした苗は,落葉期間中か新葉が出た後1カ月間に植え付けます。根の動き出す
時期が早いので,できれば11〜12月,若しくは6月中旬から梅雨明けまでに扱いたいも
のです。植え穴には堆肥や腐葉土を十分施し,根を乾かさないように手早く植え付けま
す。
○仕立て方
 自然樹形を観賞する木ですから,特別な仕立ては行いません。ただし,枝垂れ性の品
種で,根際で接ぎ木をした苗木の場合は,目的の樹高に達するまでは支柱を添えて樹芯
を誘引する必要があります。
○整枝・剪定
 モミジ,カエデの類は刃物を嫌うといわれ,不用意に太枝を切ったりしますと,切り
口からやけ込みやすいです。不要枝の剪定は,できるだけ若枝時に済ませて下さい。ど
うしても太枝を切りたいときは,枝の途中から切らずに,必ず他の枝との分岐点のとこ
ろで切るようにし,切り口には癒合剤か油性のペイントを塗って,腐敗菌の侵入を防い
で下さい。剪定の時期は落葉の直後がよく,年を越してからでは樹液を盛んに吸い上げ
ていますので,枝枯れを起こしやすいです。
 例外はトウカエデで,萌芽力が非常に強く,強剪定に耐えます。トウカエデは直立性
で盛んに立ち枝を伸ばしますので,冬期に大枝を下ろすとともに,一年生枝の刈り込み
をして姿を整えましょう。
○施肥
 12〜1月に施肥,油粕などの有機質肥料を寒肥として与えるとよいでしょう。
○病害虫
 根際にテッポウムシが食入しやすいので注意して下さい。食入孔を見付けたときは,
脱脂綿にスミチオン乳剤などの原液を浸して穴に詰め,入り口を密封して殺虫します。
 病害で出やすいのはうどんこ病で,6〜7月と9〜10月にかけて多発します。発病初
期にベンレート水和剤などの殺菌剤を散布し,蔓延を防ぎます。予防としては冬期,石
灰硫黄合剤の散布も効果的です。
○鉢植え,盆栽の管理
 カエデは出葉時から秋の紅葉,更に落葉後の繊細な小枝の美しさと,四季を通じて観
賞価値の高い樹木ですので,盆栽用樹としても珍重されます。木肌が白く美しく,根張
りができやすいことも盆栽用樹としての長所の一つです。単幹仕立て,株立ち仕立てと
して平鉢植えとされるほか,石付きに仕立てることも多いです。
 カエデ盆栽は夏の管理が特に大切でして,葉焼けを起こさぬよう西日を避けて管理し
て下さい。水切れも葉を痛める原因となりますので注意して下さい。盆栽仕立てでは,
細く,優美な枝先の美しさを強調しますので,生育期に芽切りや葉切りをするなどして,
強い枝伸びを抑制します。肥料は少な目がよいでしょう。鉢替えは2〜3年に1回,落
葉直後に行って下さい。

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