07 花菖蒲
 
               花菖蒲
 
                  参考:世界文化社発行「世界文化生物大図鑑」
 
 ハナショウブ(花菖蒲/アヤメ科の多年草)は,日本各地,朝鮮半島,中国東北部,
シベリアに分布している野生種ノハナショウブから,日本において改良されてきました。
今から500年も前から栽培され,江戸時代の天保から弘化年間にかけて盛んに改良が行わ
れ,多くの品種が作出されました。高さ60〜120p,葉は地下茎から生じ,剣状で幅0.5
〜1.5p,中央脈が太く隆起します。アヤメとカキツバタは隆起しませんので,これが区
別の目安となります。花は径12〜30p,花期は5月下旬〜6月下旬で,1花は3日間咲
きます。花形には変化が多く,外花被片(外弁)の発達して大きいものを三弁(三英サン
エイ)咲き,内花被,外花被片が同じように発達したものを六弁(六英)咲きといい,外
花被片は基部で合わさって筒状となり,下の子房に続きます。また,十二単衣ジュウニヒトエ
という品種のように,花被片が4〜5枚で子房が4〜5室のものや,雄蘂が何枚かの花
被片に変化した八重獅子ヤエジシ咲き,外弁が広がらない玉咲き,外弁が内側に曲がって先
が尖る爪ツメ咲きになるものもあります。花色には白色,ピンク,青色,紺色,紅紫色や
暈ボカし,絣カスリ,筋入り,絞り,覆輪など変化が多いです。
 園芸品種の系統には次のものがあります。
 
(1)江戸系
 江戸時代から江戸(東京)において改良されてきた品種群です。茎や葉が丈夫で,花
茎を高く突き出し,花形,花色などは様々です。風雨にもよく耐え,庭園用として優れ
ています。
 品種例:水の光ミズノヒカリ(薄紫)・黒雲クロクモ(濃紫)・浮寝鳥ウキネノトリ(白)・大和絣
          ヤマトガスリ(赤紫)・新宇宙(紫地に中が白い筋)・伊豆の海(紺の縞)・五月
     晴サツキバレ(白地に中が薄紫)・奥万里オクバンリ(白で外被片が垂れる)・春の
     海(紅がかった紫)・五三ゴサンの宝(紫地に中が白で垂れない)・潮来イタコ(
     白地に紫筋)・猿踊サルオドリ(紫)・水玉星ミズタマボシ(白地に紺筋)・清少納
     言セイショウナゴン(薄い青紫)・栄橋サカエバシ(濃紫)・十二単衣(薄紫地に白筋)
(2)肥後系
 江戸系の品種が肥後(熊本)において,江戸時代後期より改良されてきた品種群です。
葉がやや強くて太くなり,花は大輪で豪華です。外花被が緩やかに垂れ,整然としてい
て,鉢作りに向きます。
 品種例:紅葉狩モミジガリ(濃い赤紫)・新朝日の雪(ごく薄い紫地に白筋)・誰が袖
     タガソデ(赤紫に白筋)・七彩ナナイロの夢(白地に外覆輪は薄い紫)・淡路島(
     青紫に白筋)・源氏蛍(白地に紫縞)・雪千鳥(白)・舞扇(紫地に太い白
     筋)
(3)伊勢系
 江戸時代後期から三重の松阪において改良されてきた品種群です。やや矮性ワイセイで,
葉は細いですが,葉と花茎の長さがほぼ同じです。外花被が深く垂れ,襞ヒダや折り目が
あります。鉢作りにも,庭園用にも作れます。
 品種例:松坂司マツザカツカサ(紫地に一面の白筋)・岐山キザンの春(白地に紅筋)・美濃
     寿ミノコトブキ(赤紫に濃紫筋)・弥生鏡ヤヨイカガミ(薄紅紫)・極光キョッコウ(白地に
     淡紅筋)・藤袴フジバカマ(淡青紫地に濃紫筋)・津の花(淡紅紫地に細い白筋
     )・新清滝シンキヨタキ(白地に一面の青筋)・紫式部(赤紫地)・白雪(白地)
     ・美吉野ミヨシノ(薄いピンク地)
(4)アメリカ系
 主に江戸系の品種を基にして,アメリカにおいて作出された品種群です。色彩が冴え
て根が丈夫です。
 品種例:イマキュリート・グリッター(紫地に白い覆輪)
(5)その他
 これらのほかに4倍体の品種や,長井古種ナガイコシュと呼ばれる品種群もあります。また
キショウブとハナショウブを交配して作られた品種に愛知の輝カガヤキと金星キンボシがあり
ます。花は黄色,種子はできません。
 品種例:日月ジツゲツ(長井古種/薄青みの白地に内弁の外側は紫色)
     愛知の輝(雑種/黄地に中が紫筋)
 
○栽培の概要
 梅雨のうちに日光の良く当たるところに植え,適当に湿らせて置きます。連作障害が
ありますので3年目の花後,株分けして新しいところに無肥料で植え,追肥して育てま
す。実生ミショウはとりまきにして冬期に保護し,又は翌春に播きます。発芽後1〜2年で
開花します。
 
○ハナショウブの育て方
(1)土質
 土質をあまり選びません。排水,保水のよい土地ですと,水辺でなくても,普通の庭
や畑でよく育ちます。弱酸性を好みます(アルカリ性を嫌うので,苦土石灰は施しませ
ん)。
(2)植え付け
 株分け苗や購入苗は,深植えにならないように植え付けて下さい。庭や池の側では,
株間10〜15pに品種毎に7:5:3というように大小のグループに分けて植え込みます
と,自然で見映えがよいでしょう。
 鉢植えのときは,6〜9号鉢を用い,培養土(赤玉土6・腐葉土3・乾燥牛糞1の割
合)を作って植えて下さい。2本植えにするときは,中心に向かって葉の表と表を合わ
せ紐で縛って植えて下さい。鉢底には親指大のゴロ土又は10pに切った荒縄を3〜4p
の厚さに敷き,よく根を開いて植え,上根から2〜3pのところまで土をかけ,その上
に2〜3pの敷き藁をし,乾燥しないように十分潅水して下さい。
(3)肥料
 ハナショウブは秋に地下茎に養分を蓄え,越冬後にその養分で葉や花を作りますので,
8月中下旬〜9月に油粕に骨粉を3〜4割と,草木灰を混合したものを,1株当たり小
匙1杯程度置き肥して下さい。ただし春の施肥は病気発生の原因になりますので,芽出
しから開花までは肥料を与えません。
(4)株分けと繁殖
 2〜3年に1回は株分けして下さい。時期は,開花時から花の終わった直後が最適で
す。まず根を痛めないように株を掘り上げ,土を篩って水洗いし,今年咲いた花を元か
ら切り取って下さい。根茎の両脇に伸びている葉芽を1芽ずつ,根が平均につくように
分けます。古い根は切り捨て,葉は20〜30pに切り詰めます。
 殖やし方には,ほかに実生ミショウとか芋吹き法があります。
(5)実生ミショウ
 実生とは種を蒔いて殖やす方法で,品種改良するときなど,親を選んで交配させます。
母花の雄蘂は,葯が開き花粉が飛ぶ前の,開花日の早朝あるいは開花前日に除去します。
その際内・外花被も取り去って雌蘂だけにして置きますと,袋掛けは不要でしょう。花
は3日間ほど咲いていますが,開花当日かその翌日には交配します。2ケ月で種子が褐
色に熟します。とりまき又は翌春3月下旬〜4月に蒔き,20日ほどで発芽し,翌年に開
花します。
(6)芋吹き法
 芋吹き法は株分けの際,根や茎のない古い地下茎を括クビれたところで切り,川砂と鹿
沼土を等量に混ぜた培養土に浅く埋めて下さい。乾かさないように潅水し続けますと,
2〜3ケ月後に新しい芽と根が出ます。
(7)病害虫
 黄縮病,さび病,軟腐病,根腐れ病などに罹りやすいです。芽出しの頃から開花まで
は,月に1回ベンレートなどの殺菌剤を散布して下さい。
 害虫では,ハナショウブメイチュウが芽立ち頃の若芽,花後の葉の基部を食害します。
オルトラン粒剤,ダイシストン粒剤などを4月と6月頃,株元に撒いて予防して下さい。
ハダニは,ケルセン1000倍液などを散布して防除して下さい。

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