03 園芸植物の原産地
 
               園芸植物の原産地
 
                  参考:世界文化社発行「世界文化生物大図鑑」
 
 ○栽培植物のセンター
 栽培植物の起源の重要性に着目したスイスのアルフォンス・ド・カンドル以来,園芸
植物の原産地に関しては,多くの研究が行われてきました。
 植物の中には栽培から逸出して野生化してしまった種類や,起源のはっきりしない種
類も多いです。自生地の原生種が絶滅してしまったと考えられる植物もありますが,栽
培の歴史が古く,人類の歴史の上において重要な農作物では,詳しい調査,研究が行わ
れ,その栽培起源の中心地がほぼ解明されています。この起源地は二つに大別できます。
一つは原種が発見されたところでして,これを第一次センターと呼びます。もう一つは,
栽培化された植物が他の地域に運ばれ,其処が生育の最適地であったり,地域の文明,
文化と密接な関わりを持って栽培が起源地より盛んに行われ,品種改良や品種の作出が
活発だった地域でして,これを第二次センターと呼びます。これらの中心地は次のとお
りです。
 
 (1)ヨーロッパ地域
 多湿多雨気候帯と冷涼多雨気候帯に属します。野菜にはキャベツ類,セロリ,アスパ
ラガス,クレソンがあります。果樹ではスグリ類とキイチゴ類,草本ではパンジー,デ
ージー,ワスレナグサ,フランスギクなどの多年草が多く,ほかにセイヨウオダマキ,
クリスマス・ローズ,ドイツスズラン,プリムラ,ヤグルマギク,ヒナギクなどがあり
ます。これらの多くは,日本の暖地で栽培するには,真夏にやや弱い種類のものです。
 (2)地中海地域
 温帯冬雨地帯でして,夏に茎葉が枯れる球根類と常緑で革質の葉を持つオリーブやゲ
ッケイジュなどのような樹木が特徴的です。ギリシャ・ローマ古代文明が栄え,西アジ
アや中央アジア起源の食用植物の栽培化が進められました。ニンニク,タマネギ,キャ
ベツ,アーモンド,ザクロ,ブドウなどがそれです。この地域は球根植物の宝庫でして,
クロッカスを始め多くの観賞球根が生まれています。シクラメン,スイセンなどは,地
中海沿岸起源のものと西アジアのものとの雑種から作られました。草花ではヒナゲシ,
ストック,デルフィニューム,キンギョソウ,カーネーション,スイートピー,キンセ
ンカのほか,ローズマリー,ラベンダー,フェンネル,セージなどのハーブもこの地域
が原産です。セイヨウキョウチクトウも代表的ですが,花木は少ないです。
 (3)西アジア・中央アジア地域
 カスピ海沿岸からパミール高原の広大な地域でして,砂漠気候と温帯冬雨気候が入り
混じっています。多くの果樹,野菜,ムギ類の原産地として知られています。主要果樹
でありますリンゴ,セイヨウナシ,サクランボ,イチジク,アーモンド,カリン,ザク
ロ,ブドウなどの起源はここです。野菜ではホウレンソウ,レタス,タマネギ,ニンジ
ン,ニンニクなどの起源もここです。エンドウマメやソラマメも,この地域が起源では
ないかと言われています。草花ではアネモネ,カスミソウ,タチアオイ,チューリップ,
ヒアシンス,ラナンキュラスなどもあります。この地域を起源とする栽培植物が他へ移
出され,多くの変異を生んだものが多いです。
 (4)インド・東南アジア地域
 ヒマヤラの山岳地帯の寒冷気候や,インドの熱帯サバンナ気候から熱帯ジャングルの
熱帯多雨林気候までを含む,変化に富んだ地域です。果樹では柑橘カンキツ類の発祥地でし
て,オレンジ,レモン,ザボンがあります。栽培バナナの先祖と考えられる野生種のバ
ナナ,サトウキビの原種,野菜では根菜文化の元となったサトイモはこの地域に起源の
ある系統があります。マメ類もこの地域が起源でして,フジマメ,リョクトウなどがあ
ります。キュウリの祖先型の一種やナスは可成り古くからインドにおいて栽培され,イ
ンド,ビルマに祖先型の野生種があります。
 観賞植物においてはポトス,インドゴムノキ,ネペンテス,クロトンなどの観葉植物,
耐寒性のある多年草のヒマヤラユキノシタ,耐寒性樹木のヒマヤラスギなどがあります。
ヨーロッパ,アメリカの庭などで重要な役割を果たしているシャクナゲ類もヒマラヤ山
岳地帯から導入されました。ホウセンカ,ケイトウ,コリウス,ハス,キョウチクトウ
や,熱帯ランの花卉類も,この地域から紹介されました。
 (5)東アジア地域
 西は天山山脈から東は日本に至り,砂漠気候から温帯多雨気候までで自然環境は多岐
に亘っています。日本に導入された園芸植物の起源の多くが中国,又は中国経由である
と言われています。中国南部からインドシナ半島,フィリピンにかけて自生する野生種
から改良されたミカン,古くから栽培されていたスモモ,モモ,ビワ,カキ,カリンや,
ニュージーランドに導入されて有名になったキウイも中国原産です。チャは中国東南部
からインドシナにかけての山岳地方が起源です。野菜ではシソ,チョロギ,タケノコ類,
クワイ,マコモ,アズキ,ダイズなどもあります。花木の代表種で身近な種類を列挙し
ますと,キンモクセイ,ジンチョウゲ,ロウバイ,ライラック,マツリカなどの香りの
高い花木,レンギョウ,オウバイ,ボケ,ハナズオウ,コデマリ,モクレン類,ハクチ
ョウゲ,ビヨウヤナギ,サルスベリ,バラ類,ピラカンサなどもあります。また,セキ
チク,シュウカイドウ,イチハツ,シャガなどの草花や,シダレヤナギ,コノテガシワ,
イチョウ,メタセコイアなど,モウソウチクを始めとする各種のタケなども中国が故郷
です。
 中国や日本において古くから栽培されて世界に広まったキク,ボタン,シャクヤク,
ウメなども中国を発祥地とします。
 日本において栽培化されて世界に紹介されたものにカエデ,アジサイ,ツバキ,サク
ラ,アオキ,ツツジ,フジ,ユリ,ジャノヒゲ,ギボウシなどがあります。ハナショウ
ブ,サクラソウ,アサガオ,ハボタンなども日本において独自に改良が進んだ世界に誇
る花卉です。斑フ入り植物やオモト,シュンラン,セッコク,ササ,カンノンチクなどの
観賞植物も著しく発達しました。
 ほかに日本原産の花木としてアセビ,コブシ,ウツギ類やハギなど,草花ではエビネ,
フクジュソウ,ナデシコ,野菜ではセリ,フキ,ミツバ,ワサビなどがあります。
 (6)北アメリカ地域
 北アメリカは,寒冷地の北部,乾燥した西部,日本と似た東部の温帯多雨地帯に大別
でき,東部ではタイサンボク,カルミア,アメリカスズカケノキ,アメリカヤマボウシ,
ニセアカシアなどの樹木や,サラセニア,アメリカフヨウなどが知られています。
 西部にはトルコギキョウ,ルリカラクサ,カリフォルニアポピー,ハナビシソウなど
があります。
 (7)中央アメリカ地域
 熱帯雨林気候,熱帯夏雨気候,砂漠気候が入り組み,植物の種類は多いです。この地
域のインディオは誇るべき文化を持ち,トウモロコシ,カボチャを栽培していました。
サボテンの原産地としても有名で多くの種類があります。草花では,コスモス,ヒマワ
リ,ダリア,ヒャクニチソウ,マリーゴールド,アゲラタム,ポインセチア,アンスリ
ウム,多肉植物のリュウゼツラン,ユッカ,エケベリアなどが代表的です。
 (8)南アメリカ地域
 アンデス山脈北部の温帯夏雨気候,同山脈南部の温帯冬雨気候からアマゾン流域の熱
帯雨林気候,さらに熱帯サバンナ気候や海岸砂漠気候もあります。アマゾン川流域の密
林地帯を原産とするアナナス類などの熱帯観葉植物は素晴らしいものですが,この地域
において忘れてならないことは,多くの食用,工芸作物の原産地として重要なことです。
コロンブスが持ち帰って広めたタバコはアンデスの温帯地域原産ですし,トマト,ジャ
ガイモ,サツマイモ,カボチャ,トウガラシ,インゲンマメのセンターでもあり,ここ
から世界中に紹介されて広まりました。
 花卉ではシャコバサボテンなどのサボテン類,フクシア,カルセオラリア,アルスト
ロメリアなどがアンデスを中心とする山地にみられます。
 一方,ブラジルなどの低地には,モンステラ,カラジューム,ディフェンバキア,カ
トレア,オンジウム,ベゴニア,ペチュニア,カンナ,マツバボタン,オシロイバナ,
サルビア,ブーゲンビレア,トケイソウなどが産します。
 (9)アフリカ地域
 赤道周辺には熱帯多雨気候が広がり,砂漠気候へと移行します。園芸植物は,アフリ
カ南部の,地中海地域に類似した気候帯において特に種類が多いです。そこからはエリ
カやプロテアなどの花木,グラジオラス,ネリネなどの球根,ゼラニウム,ガーベラ,
ガザニア,カラー,クンシラン,マツバギクなどの草花,アロエ,アオサンゴ,ミドリ
ノスズ,カゲツ,リトープスなどの多肉植物,スイカなど多彩です。東アフリカからは
セントポーリア,サンセベリア,アフリカホウセンカ,アオサンゴなど,エチオピアか
らコーヒーノキ,西アフリカからヒョウタン,ササゲ,オクラなどの栽培植物が知られ
ています。北西のカナリー諸島はシネラリア,マーガレット,アエオニウム,カナリー
ヤシなどの原産地です。東南のマダガスカル島は多肉植物の宝庫でして,代表群にハナ
キリン,カランコエ,パキポディウムがあります。
 (10)オーストラリア地域
 乾燥地ですのでユーカリ,ブラッシノキ,アカシア,ミモザ,カイザイク,ムギワラ
ギク,ローダンセ,アニゴザントスなど既知の種類のほか,未導入の花卉が多数あり,
将来性の高い地域です。
  ニュージーランドには,コージリネ,ニューサイラン,ギョリュウバイなどがありま
す。
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