05c 日本庭園の手法2
△滝タキ
日本庭園では,滝を重要な局部として扱ってきました。これには自然に露出した岩盤
などを利用した滝も行われますが,石を組む方法もあります。滝口の立石にはまず水落
石ミズオチを立てます。これは滝組の中核となる石で,その形式が厳選されますが,加工石
は避け,一般に山石の天端の平らな襞ヒダの多いものが選ばれます。また,この水落石の
形状とその立て方によって滝水の落ち方が決まり,古く,作庭記に示されるような種々
の水落ちの形が作り出されます。水落石の姿に応じて左右に脇石を添えます。その間隙
は小石混じりの粘土で十分に打ちます。この一群の石を基準として左右に石を畳み,滝
口を構成します。滝口にはその水景に変化を与える目的で,滝口に据えて水を分け流す
ための波分石ナミワケイシを,また滝の途中には滝条を分け落とすための水分石ミズワケイシを据え
ることもあります。また,滝の水を受けて水に変化をつけるために滝壷には水受石ミズ
ウケイシを据えます。
これらの滝組みの役石は,庭園によって取捨されますが,水を流すことのない枯山水
では,かえって滝組を吟味する必要があるとしています。
△片落カタオチ,布落ヌノオチ
作庭記によりますと,片落は右から添えて落とし,花に寄せ立てた前石で受けさせて
右に落とすもの,布落は水落に平滑な石を立てて布を晒し掛けたように落とすものとし
ています。
△飛泉障りの木ヒセンザワリノキ
滝口には滝囲いの木と相俟って滝口に深みを与えるために,滝口の前に枝を差し掛け
るように飛泉障りの木が植えられます。柄振りの軽い,多くはカエデ,マツなどが選ば
れます。
△滝囲いの木タキガコイノキ
作庭記によりますと,木暗いところから落ちる滝に趣があるとされていますので,滝
組みの背後には樹木を植え込んで滝口に深みを与える手法が採られます。マツ,ヒノキ,
モミなどの針葉樹,カシ,シイなどの常緑広葉樹が多く用いられ,またカエデなどを強
調的に配植します。
△遣水ヤリミズ
遣水は庭の小さい流れのことで,深山の渓流と野辺の流れとに分けられます。渓流は
山の谷間から厳しく流れ出た形で,水を白く沸き立たせる角のある石を用い,薄暗い植
込みを伴わせます。下って野辺の流れは,起伏のある広い丘を造り,流れ巾を広くして,
水のせせらぎを主にみせます。水際の草生の勾配は緩やかにし,10〜15p程度の玉石を
臥せます。草木はキキョウ,オミナエシ,ワレモコウなど明るいものとします。
勾配は,庭内では3%程度がよいとされています。流れの合間には州浜や瀬,島,浦
の淀み,小橋,沢飛石,魚隠し,後に灯篭,流れつくばいなどが設けられるようになり
ました。役石には,底石,水辺の石,詰石(積石で他の石の基礎になります),横石(
流れに対し横や斜めに据える石),水越しの石(水が石の面をうっすらと越えて流れる
石)が挙げられます。
△はん池ハンチ
中国に数多いはん池,はん水と称される整形の池で,寺や廟,学校などの前庭に設け
られ,形は長方形,半円形,八角形などがあります。池を渡ることにより,水で清めら
れ,俗界から神聖の地に入るとされているものです。
太宰府神社の前庭,流れを渡る反橋(太鼓橋),また禅寺など池を2分する反古橋な
どの例があり,池の形は日本化されて非整形となりました。
△鴨池カモイケ
秋冬に渡来する野生鴨を誘致するため,周囲を笹などを密生させた土手で遮断し,家
鴨を囮にして狩猟する場です。旧浜離宮庭園など,旧藩時代の古池は鴨池でもありまし
た。
△心字池シンジイケ
禅宗からきた池の形で,池に3島を配したものです。この心字池は多くの名園で取り
入れられ,どの岸からみても,池の全貌が捉えられないのが特徴です。人々は岸辺を歩
き,池の全体が見渡せる眺望点を設けません。
△池畔チハン
汀線の変化に応じて,例えば荒磯岬や入江,断崖,湖沼,州浜など,それぞれに景趣
の性格,池畔の土質,鑑賞する人々の行動の質量や性質などを考慮し,特徴的な護岸を
構築することとなります。
△荒磯アライソ
日本庭園では,池の姿は海の風景を写そうとするところから始まりました。京都周辺
の著名な海景を庭に写して鑑賞することが,夏の蒸し暑い盆地に住む平安貴族の理想で
もあったのです。
△州浜スワマ
州浜とは,海食によって作られた岩屑や川では,運び出されて砂が比較的穏やかなと
ころに堆積して作られる砂浜の地形です。例えば,数oの白砂(花崗岩砂)を10p前後
の厚さに置いて,飛石や苔を置かず,石を置くときは自然風に砂の流れ上がったように
作ります。
△護岸ゴガン
護岸には,草止め,柵シガラミ,乱杭,蛇篭,石組,玉石,州浜の種類があります。護岸
は汀線断面の保護と,水洩れを防ぐために行われます。
△魚溜まウオダマリ
水面下70p位のところに壷などを置いて,魚の休憩所,避寒地,池掃除のときの溜ま
り場として設置します。
△涸れ池カレイケ
涸池,涸流,涸滝は室町時代末期頃からでてきた手法で,山裾に池の形や流れの形を
掘り,底に玉石や砂利などを敷いたり白砂を撒いたりしたもので,枯山水形式の一つで
す。
△砂紋
室町時代以降,白砂や砂利は,海又は水の象徴として枯山水形式の庭などで盛んに用
いられています。砂紋は石や木の根元,工作物の周囲に沿って,波や唐草,矢羽がえし,
渦巻きなど好みの模様を熊手で描くものです。砂紋の境界には葦などの侵入を防ぐため,
適当な深さの縁石を置きましょう。
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