04a 日本庭園の手法1
 
 △禅院の庭
 禅宗の教義から生じる自然観が庭園に反映したもので,室町時代の禅院に最もよく表
れています。その特徴は,象徴的な石庭,いわゆる枯山水カレサンスイ・カラセンズイの庭が代表的
なものといってよいでしょう。禅宗では自然界の森羅万象は一切浄土の相であり且仏法
への道であると観じます。また感覚的なものより本質的に宗教的な美を求めました。従
って,象徴性の高い造形が重んぜられます。京都の竜安寺方丈の庭,大仙院や金地院の
庭など,いわゆる日本庭園の代表的作品といわれるものが輩出しました。これらの庭は,
象徴的手法の故に小面積の空間に広大な天地自然の感興を潜ソヒませることができます。
宗教的とみなされる故に気品を持っていて,江戸時代の縮景園とはその本質を異にしま
す。また,象徴的の故に,その空間に実体としての人を入れて,空間のスケールを混乱
せしめることを避ける必要があり,閉鎖的,絵画的且観念的な特質を持っています。
 △平庭ヒラニワ
 池を穿たず,平坦な地上に立石配植する庭を平庭といいます。築山は深山幽谷を重き
に,平庭は海岸島嶼トウショに重きをおきます。江戸時代になりますと,奥行きの浅いとこ
ろには平庭として,枯山水を造ることが流行しました。
 △坪ツボ
 建物と建物に挟まれた小面積の空間を坪といい,寝殿造で対屋タイノヤや局ツボネに囲まれ
た中庭空間を壷ツボと呼びます。次第に草木が植えられ,水や石が用いられるようにな
り,はぎ壷,藤壷,梅壷,よもぎ壷,石の坪などと呼ばれ,僅かの材料を以て趣のある
風景を描き出し,小面積の採光空間を美しく作り出すことに成功しました。
 近世町屋に四方を家に囲まれた20〜30坪の坪庭が生まれました。ここには飛石,灯篭,
手水鉢が装飾的に据えられ,露地庭の形式のみが採り入れられました。
 △野筋ノスジ
 野筋とは深山に対する野山のことで,丘陵状の原野の景趣をいいます。庭園の題材を
地形により深山,野山,水辺,海辺と区別しますが,その野山をいいます。野筋は起伏
をつくって,ところどころに疎マバらに露岩とか転石を据え,草や苔をあしらいます。
 
 △泉水センスイ
 泉の水を引いて作泉ツクリイズミをすることで,きれいな小石を敷いて水を浅く湛えるよう
にし,植え込みで囲って自然の湧水のようにして引き込むものです。鎌倉時代頃までは,
泉水を「前庭の水」といっていましたが,今では泉水は庭の総称としています。
 △縮景シュッケイ
 江戸時代初期の大名は,例えば水戸の偕楽園,東京の後楽園,戸山荘庭園などはそれ
ぞれの局部に,全国各地の景勝地を縮景的に作庭したものです。随所にそれらの縮景を
展開していますので,廻遊式庭園の変化したものといえます。
 △汐入風シオイリフウ
 水利に恵まれず,海辺に近いところで使われた手法です。直接又は間接に海水を庭池
に引き込んで潮の干満に応じて,また水門によってその景色の変化を楽しむもので,旧
浜離宮や浜離宮庭園はその代表的な例です。
 △武学流ブガクリュウ
 江戸時代に津軽藩主の奨励で盛んになった,大石武学流の庭園です。つくばいの海を
広く大きくとり,飛石もやや離れて据え,踏面が平らでない石も使う,豪壮な流儀の造
庭手法です。
 △真行草シンギョウソウ
 真は物の実体が完備したもの,行はそのやや省略されたもの,草は最も簡素化された
ものとし,真行草の順に象徴化が深まるものと解され,これらの要素がバランスよく造
形されていることとしています。この思想は,文政年間(1800年代前期)に庭園形式と
して完成しました。
 △侘ワビ・寂サビ
 侘・寂は,和歌・俳句や茶道における最高の美的理念とされており,侘は人間の心情
に則したものであり,寂は物に現れる現象に立脚するものとみることができます。これ
を庭園にたとえれば,侘は庭に対して感ずる雰囲気,あるいは庭園生活の中から見出さ
れる美であるのに対し,寂は時の経過により岩石や樹木が苔むしたり,庭の景色が古め
かしくなった状態などを指すものと解されます。
 
 △湧泉ユウセン
 平安貴族にあっては邸内によい湧泉があることが,その住宅,庭園の格を示す第一条
件とされました。湧泉を活用した作泉ツクリイズミの技法が重んぜられました。蹲踞ツクバイは
山裾の湧泉を水鉢に見立てた茶人の優れた独創でした。
 △作泉ツクリイズミ
 作泉とは,自然の泉の湧くところにその水を利用しやすく,また水の汚れる心配のな
いように何らかの手を加えることをいいます。井筒や枠を組み,筧カケイでこれを引くな
ど,水を汲みやすくしたり,その部分に屋根を掛け,井筒に蓋をし,井戸館を組んで釣
瓶ツルベで汲み上げるなどの手を加えます。ときには溢れた水を遣水として庭園内に流し,
そのために玉石などを敷き詰める化粧を施す場合もあります。
 △井泉セイセン
 井泉とは,湧泉のところに井戸構えを施したものをいいます。
 △閼伽井アカイ
 自然に湧き出る水を仏に供養する場合の水を,閼伽水又は功徳クドク水といい,この井
泉を閼伽井アカイといいます。
 
 △神仙島シンセントウ
 神仙思想はわが国では,中国的な功利的意味からではなく,吉野や富士山などの自然
の好風景をそのまま神仙境に準ナゾラえ,あるいは不老長寿を目出度いこととして庭園に
神仙島が造られました。醍醐三宝院,二条城二之丸庭園,桂離宮などの三つの中島は蓬
莱ホウライ,方丈ホウジョウ,瀛州エイシュウの三神仙島を表したものです。
 △九山八海石クセンハッカイセキ
 仏教においては,須弥山シュミセンには妙高山,七金山,鉄囲山の9山と,その間に8海が
あることから,1個の石に九山八海と命名し,須弥山を表すこととしました。
 △普陀落山フダラクサン
 仏教の世界観の一つで,普陀落山は観世音菩薩の布教のところといわれ,庭園の中に
象徴的に意味を持たせるために造る山です。
 △縄張りナワバリ
 設計図に示された地割り(池・中島の形,園路や流れの線,野筋・築山の盛土部分な
ど)を地上に移すため,地面に細い杭を打ってゆき,その間を縄で繋いで形を描く作業
を言います。
 △地割チワリ
 与えられた庭の空間を機能別に区割りをすることをいいます。
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