04 日本庭園の手法1
 
            日本庭園の手法1
 
 〈日本庭園の手法〉
 
 △風景式フウケイシキ庭園
 日本庭園を形と内容から大別しますと,池庭,山水,茶庭の三つになります。そのい
ずれもが基本的には自然の風景を題材として,風景を理想化し,象徴化しているところ
に最大の特色が認められます。それが日本の風土や,それによって育まれた国民性や美
意識によって独自の風景式庭園として発展してきました。これを縮景の仕方からみます
と,@広大な風景を遠望したような形で縮小しようとするもの,A風景の好ましい部分
を組み合わせて,一つの景にまとめようとするもの,B自然の一部分を,そのまま切り
取ってきたような形で庭に持ち込もうとするもの,の三つの態度が考えられます。おお
ざっぱにいいますと,池庭は@にはじまり,中世以来Aの要素が強くなり,枯山水は2
にはじまり,茶庭はBに基調を置くとみることができましょう。自然材料の取扱いに,
一見,反自然的な意匠,手法がみられる場合でも,日本庭園ではそれが自然らしさを強
調しようとすることからの行き過ぎであることが多いです。また,思想的,観念的な造
形も,対象とするものは常に自然風景であり自然材料でありました。
 △整形式セイケイシキ庭園
 日本庭園として,典型的な風景式庭園で一貫してきたことが挙げられますが,江戸時
代初期,小堀遠州の設計した庭園の中には,日本庭園として初めてともいえる整形的な
地割を持つものがありました。後水尾上皇の仙洞御所の池は,屈折した直線の切石積護
岸で囲まれたほぼ長方形をなしていましたが,中島や出島と護岸の一部には自然風の扱
いが残されました。それが明正上皇のために設けられた新院御所にあっては長方形の花
壇・芝生,直角に折れ曲がった御溝ミカワなど,その平面計画は幾何学的で左右対称的な配
置となっています。これらは西洋の整形式庭園とは本質的には異なりますが,それ以後
はこの新様式は発展しませんでした。
 △回遊式カイユウシキ庭園
 回遊式庭園においては,地割や細部はその目的を意図して構成されることにあり,桂
離宮で完成され,以降皇室や大名関係の多くの大庭園の形式となりました。大面積で,
大園池を中心とし,それに,回遊式(巡観式のものもある)の要素を採り入れたもので
す。
 △枯山水カレサンスイ(からせんずい・こせんずい)
 枯山水は古くは,「作庭記」に記載されており,池も遣水ヤリミズもないところに石を立
てたものを指すとしています。
 今日一般化しています枯山水の庭園は,室町時代の禅寺寺院において様式的に完成し
たもの,すなわち,水を使わないで水のある感じを象徴的に表した庭園全体を指すもの
で,大仙院や竜安リョウアン寺の庭園に代表されます。
 なお,「作庭記」とは今日に伝わる最古の庭の秘伝書で,特に立石,配石など平安時
代の庭園研究に欠かすことことのできない資料です。
 
 △前栽センザイ・セザイ
 前栽とは庭園に植えられた草花のことで,平安時代の初期から用いられた言葉です。
作庭記には,遣水のほとりの野筋や,枯山水様に前栽を植えることを記しています。前
栽は,特に建物や廊に囲まれた坪庭には最適で,ここに植えたものを坪前栽(内裏にあ
っては壷前栽)と呼んでいます。
 △林泉リンセン
 林泉とは,池を穿ちて島を築く形式の庭をいいます。京都,奈良では湧水池も多く,
清流もあって,そして庭に取り込んだり,池を作ったりすることが比較的簡単であった
こともあって,風致的な林泉型庭園が発達しました。
 △茶庭
 茶庭は室町時代に完成したものです。もともと開放的な茶室で坪庭を眺めながら茶を
喫していましたが,次第に閉鎖的な茶室になり,茶庭は休息するところと坪とが露地に
分化したものです。茶庭は茶室への通路であって露地(路地,露路)ともいいます。露
地は「浮世の外の道」として,豪華絢爛たる桃山時代に,侘ワビを旨とする生活の流れと
して併存しました。
 茶道を書院風茶道と草庵風茶道に分けることもできます。
 
 △草庵風露地ソウアンフウロジ
 草庵風露地は自然らしさを旨とします。区切り(結界)の仕方によって一重(段)露
地,二重露地,三重露地とに分けられます。区切りは,それによって環境の雰囲気を変
え,次第に気分を静め高めてゆくための手法で,時間的な継起的体験を調節し方向づけ
る技術を駆使します。普通二重露地は,茶室のある内露地と,それへ通じる外露地とに
分かれます。外露地には,露地口(入口),寄付ヨリツキ(袴付,更衣待合室),外腰掛(
腰掛待合,休憩施設),下腹雪隠(大便所)を設けます。内露地には,内腰掛(中立待
合),砂雪隠(小便所),つくばい(手洗施設),井泉(給水施設)などを設けます。
ここでは,渋シブさ,侘ワビが主調となります。なかでも,まず心を洗い清めて茶室に臨
む行動の要素として,またよく景になじむこともあって,つくばいは最も重要かつ有利
な施設です。内外露地の境は,四つ目垣,生垣などにし,中門や中潜ナカクグリ,猿戸を設
けます。
 △内露地ウチロジ
 内露地は茶室のある露地のことで,侘ワビ本位とするのが一般的です。それには半日蔭
が有利です。普通道路は細長く,歩く足元の景と機能に重点をおき,飛石,短冊石,紋
飛,畳石などを用い,根締めにトクサ,センリョウ,マンリョウ,ムクムクチリメンゴ
ケ,地苔などを用います。飛石には本御影,鞍馬,筑波,伊勢花崗岩,安山岩など石錆
の出やすいもの,植物では,カンチク,シホウチクなどのタケ類,タイサンボク,ツバ
キ,ザクロ,ヒサカキ,トベラ,モッコク,シャリンバイ,ムラサキシキブ,ガマズミ,
ウメモドキ,ロウバイなどが適しています。足元を照らす灯篭は低目のものを用いて景
のなじみを図ります。
 △野立ノダテ
 野や山あるいは浜辺で行う茶会で,花の下に筵ムシロを敷き,その上に毛氈モウセンや座布団
を敷きます。
 △貴人口キジングチ
 茶室への入口は,一般客人口のにじり口と,貴人の入る貴人口とに分かれます。しか
し,現在ではどちらか一方があり,誰でも入る客人口として用います。
 △砂雪隠スナゼッチン
 内露地の中の施設で,小用は砂雪隠,大用は下腹雪隠といいます。現在では形式とし
て用いられ,雪隠の石(前石と後石)に清砂を入れ,不浄を捨て清浄な気分を起こさせ
ることとしています。
 △土庇ドビサシ
 床のない庇で,床はたたきになっており,細かい大磯石の洗い出し仕上げなどが良く
用いられます。
 △塵穴チリアナ
 数寄屋の軒内,又は軒内近く,腰掛待合の横などに設けるもので,露地を掃除したと
き,木の枝や葉などの落ちたものをこの穴に入れて風情を出すものです。形は直径約20
pの円形と,約37pの方形があり,深さは約30p,縁幅は2.5pとして軒打ちから1p上
げます。深草の漆喰で周囲を塗り,その縁の一部に硯石を取り合わせ,青竹の塵箸を添
えておきます。
 △敷き松葉シキマツバ
 冬季における霜柱の養生として行われる敷葉の一種ですが,露地に冬の風情を添える
という重要な目的を持っています。その露地内に松の樹がなければ敷きませんし,樹木
の下,腰掛の前にも敷かないという説もあります。赤松の落葉を用いるのが普通であり,
冬至から敷き始め,寒中は多くして立春頃から揚げ始め,炉から風炉に替わる頃には全
部揚げ終えることになります。
[次へ進んで下さい]