03d 京都歳時記[花鳥風月]その二
 
〈十一月〉
 
△初霜
 ねやの上に霜やおくらんかたしける したこそいたくさえのぼるなれ 和泉式部
 あはれ見えし袖の露をばむすびかへて 霜にしみ行く冬枯れの野辺 西行
 
△北山しぐれ
 ぬれきつつとふべき山の夕暮も おなじ時雨のすゑの白雲 順徳院
 よそに見てやみなばねたしかづらきや ひとり時雨るる峰の白雲 大蔵卿有家卿
 日の光いでそふかげのしぐるるは いづれの方の山辺なるらん 朱雀院
 
△紅葉
 白露の色はひとつをいかにして 秋の木の葉を千々チヂに染むらん(古今集)藤原敏行
 いつの間に紅葉しぬらん山桜 きのふか花の散るを惜しみて(新古今集) 具平親王
 千早ぶも神代もきかず龍田川 からくれないに水くぐるとは 在原業平
 
△紅葉狩
 うす霧の立ちまふ山の紅葉葉は さやかならねどそれとみえけり(新古今集)高倉院
 小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今一度の行幸ミユキ待たなむ(拾遺集) 藤原忠平
 
△霧
 人のみることや苦しき女郎花オミナエシ 秋霧にのみたちかくるらん(古今集) 壬生忠岑
 明ぼのや川瀬の浪の高瀬舟 くだすか人の袖の秋霧(新古今集) 源通光
 
△鷹狩
 はしたかのしるしの鈴の近づけば かくれかねてやきぎすなくらん 前斎宮河内
 はしたかの明日の心やかはりなん 今日そらとりのあはれがひして 源仲正
 
△落葉
 吹く風の色の千種チグサの見えつるは 秋の木の葉の散ればなりけり(古今集)
                                  読人知らず
 故郷フルサトは散るもみぢ葉にうづもれて 軒の忍ぶに秋風ぞ吹く(新古今集) 源俊頼
 
サガギク サガギクは右京区嵯峨において作り伝えた菊で,160年程の歴史がある。十一
 月に普通のキクより後れて咲きます。箒木ホウキ作りと云う痩せ姿に仕立てます。中菊で
 花弁は初め縮れ乱れて繰り出し,伸びるに連れて垂れ,その後上方に向かって立ち上
 がり,茶筅チャセンを立てたような姿になります。嵯峨の大覚寺の庭に栽培されますが,
 愛好者の展示もあります。府立植物園その他にも展示されます。明治中期,東京の新
 宿御苑において品種が改良されました。
 
カエデ 京都周辺の山地のカエデの見頃は十一月二十日前後です。カエデの名所は,東
 では修学院離宮・赤山セキザン・永観堂・東福寺,西では高雄です。タカオカエデはカエ
 デのことでイロハモミジとも云い,葉が5〜7裂,径3〜7pです。山地にはオオモ
 ミジがあり,葉は7〜9裂,細鋸歯縁,径7〜11pです。ヤマモミジは葉がオオモミ
 ジに似て鋭重鋸歯縁です。高雄にはこの三種が野生します。タカオカエデは京都市の
 木として選ばれた三木のうちの一つです。
 
イチョウ イチョウは京都の街路樹に最も多く,十一月の黄葉が美しい。西本願寺の水
 吹きイチョウは市の天然記念物に指定されました。京都御苑や市内にある大木には秋
 には銀杏が出来て,大風が吹きますと近所の人が拾って,焼いたり料理に用いたりし
 ますが,一時に多量に食べないようにしましょう。イチョウは中国中部の原産で,元
 代に薬として採用,室町時代にわが国に伝来しました。イチョウとは近世中国音鴨脚
 ヤーチャオの転訛したものです。丈夫で長命,雌雄異株の裸子植物です。
 
ケヤキ 市内にはケヤキ,エノキ,ムクノキなどの落葉樹の大木が多く,街の緑化に役
 立っています。ケヤキの葉は晩秋に褐色となって美しい。大正時代に植えた府立植物
 園の並木,戦後の御池通,白川通の並木も立派に育っています。本州・四国・九州,
 中国に分布し,重要建築材で,市内の江戸時代の社寺の建築に多く用いられています。
 雌雄同株で,目立たない小さい花が四月〜五月に咲きます。ケヤキとは大木なのでケ
 ヤキ木,目立つ木の意と云います。
 
サザンカ サザンカは,春のツバキと同属ですが秋に咲きます。サザンカの子房に密毛
 があり,若枝に毛が多い。山口県や四国・九州に野生し,野生のものは花弁は白,普
 通は5枚で離生します。ツバキは花弁の下部が合生し,子房は無毛です。サザンカは
 京都の庭や生垣によく植えられ,花は径5〜8p,白色や紅色,八重のものなど,園
 芸品種が極めて多い。詞仙堂にはサザンカの大木があり,花は白で径3〜4p,晩秋
 から冬に咲き,江戸初期に石川丈山が植えたと伝えます。
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