03c 京都歳時記[花鳥風月]その二
 
〈十月〉
 
△神無月
 神無月時雨もいまだ降らなくに かねてうつろふ神なびのもり(古今集)読人知らず
 
△擣衣
 里はあれて月やあらぬとうらみても 誰あさぢふに衣うつらん(新古今集)藤原良経
 
△秋田
 秋の田のかりほの庵イホの苫トマを荒み 我が衣手コロモデは露に濡れつつ(後撰集)
                                   天智天皇
 秋の田のかりねの床のいなむしろ 月やどれどもしける露かな(新古今集)
                                  大中臣定雅
 
△秋山
 紅葉葉の色にまかせてときは木も 風にうつろふ秋の山かな(新古今集)
                                春宮権大夫公継
 
△秋風
 吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ(古今集) 文屋康秀
 明けぬるか衣手寒しすがはらや 伏見の里の秋の初風(新古今集) 藤原家隆
 夕されば門田の稲葉おとずれて 蘆のまろやに秋風ぞ吹く(金葉集) 源経信
 
△秋雨
 雨降ればかさとり山のもみぢばは 行きかふ人の袖さへぞてる(古今集) 壬生忠岑
 もみぢ葉をさこそ嵐のはらふらめ 此の山本も雨と降るなり(新古今集) 藤原公経
 
△秋野
 色かはる露をば袖におきまよひ うらがれて行く野辺の秋かな(新古今集)
                                  藤原俊成女
 
△荻
 夕暮れは荻オギ吹く風の音まさる 今はたいかにねざめせられん(新古今集)具平親王
 荻の葉も契りありてや秋風の 音信そむるつまとなりけん(新古今集) 藤原俊成
 
△菊
 久方の雲の上にて見る菊は あまつほしとぞあやまたれける(古今集) 藤原敏行
 心あてにおらばやおらん初霜の おきまどはせる白菊の花(古今集) 凡河内躬恒
 九重ココノエにうつろひぬとも菊の花 もとの籬マガキを思ひ忘るな(新古今集)
                                 花園左大臣室
 
キク 栽培のキクは中国から伝来し,江戸時代に大きく改良され,以来わが国のキクは
 世界一の座を占めています。京都においては江戸時代に円山や北野において,現在は
 府立植物園や二条城において愛好者による見事な展示会があります。枚方公園では菊
 人形と展示会があります。花期は十月下旬から十一月上旬です。京都の山地には秋深
 く,白い花のリュウノウギク,黄色で小さい花のキクタニギク,小菊の一つであるシ
 マカンギクが咲きます。
 
キンモクセイ 十月に京都の街を歩きますと,キンモクセイの芳香が漂います。キンモ
 クセイ(中国名「丹桂」)は中国原産の常緑樹で,葉は狭長楕円形,革質,花は葉腋
 に束生し,小さな黄褐色で四裂しています。雌雄異株で,わが国には雄株しかありま
 せんので果実は出来ません。花の白いギンモクセイは室町時代に渡来,キンモクセイ
 は江戸時代に渡来しました。
 
△残菊
 秋暮れて千種の花も残らねど ひとりうつろふ霜がれの菊 藤原重基
 
△鹿
 奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき(古今集) 読人知らず
 嵐吹く真葛が原に鳴く鹿は うらみてのみやつまをこふらん(新古今集) 俊恵法師
 
△雁
 大江山かたぶく月の影さえて とばたの面に落つるかりがね(新古今集) 慈円
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