12 新宿御苑の菊栽培の歴史
 
  三 中菊篠作り花壇
 
  木軸組立,障子屋根,奥付,間口七間,奥行二間,軒高
 八、五尺,面積一四坪の上家に一株二十七輪仕立の中菊
 三十二株を三列互の目に植付けたものです。
 
  花壇の説明
  中菊を一株二十七輪仕立の篠立て作りとして「互の目」
 に植えたものです。中菊は関西の大菊に対し,江戸におい
 て流行しましたので江戸菊ともいわれています。また花弁
 が狂いますので狂菊ともいわれ,その狂い方によって「追
 抱オイガカエ」,「褄折ツマオレ抱」,「丸抱」,「乱れ抱」,「
 自然抱」,「露心ロシン抱」,「管クダ抱」の七通りの名前が
 つけられています。
  この菊は平弁ヒラベン,管クダ弁,匙サジ弁の三種の弁から
 なります。管弁か匙弁かが走り,平弁が狂うのが本格的な
 もので,平弁がなく,管弁か匙弁だけで狂うのは「管抱」
 と呼ばれる狂い方で別格とされ,品格が劣るものです。
  この菊はどのような狂い方をしても整然とした花容を呈
 し,満開後も狂い方に少しも変化のないものがよい花とさ
 れています。
 
 
  四 一文字菊,管物菊手綱植花壇
 
  木軸組立,障子二重屋根,襖付,間口五間,奥行二間,
 軒高八、五尺,面積一〇坪の上家に一本作りの一文字菊
 一一八本,管物一一九本,合計二三七本を二十七列に植付
 けたものです。
 
  花壇の説明
  この花壇は,一文字菊と管物菊を一本作りとして混植し
 手綱植としたものです。一文字菊は平弁の一重咲で各弁が
 相対的に整列し,弁は巾広く,長く伸び,十五,六弁から
 十七,八弁位の花がよいとされています。この菊は俗に御
 紋章菊(又は広のし菊)といわれています。
  管物菊とは,凡ての弁が管弁状になっている菊をいいま
 すので,その弁の太さのよって太いものを太管菊,細いも
 のを細管菊といい,その中間の太さのものを間管菊といい
 ます。
  この花壇に植えられました管物菊は細管菊で,一般に栽
 培されています玉巻性のものではなく,細く長く雄大な花
 容を持つ品種で,新宿御苑の作出種です。
 
 
  五 伊勢菊,丁子菊,嵯峨菊混植花壇
 
  木軸組立,障子二重屋根,よしず戸付,間口五間,奥行
 二間,軒高八、五尺,面積一〇坪の上家に伊勢菊三四株,
 丁子菊三四株,嵯峨菊三四株,合計一〇二株を混植したも
 のです。
 
  花壇の説明
  この花壇は伊勢菊,丁子菊,嵯峨菊を混植して一花壇と
 したものです。
  伊勢菊は松坂市,津市を中心として発達した菊で,この
 花は全部平弁で咲き初めは弁が縮れ,開花するに従って弁
 が伸び垂れ下がって満開となるものです。その弁が長く垂
 れ下がるほど良い花とされています。
  丁子菊は昔,主として関西地方で作られた菊で,花の心
 の弁が丁子の花によく似ていますのでこの名があり,外国
 では「アネモネ菊」とも呼ばれています。花弁は平弁,匙
 弁などがあり,花心と花弁の色が異なり,造花のような感
 じのする花です。
  嵯峨菊は京都の嵯峨を中心として発達した菊で,この花
 は全部平弁で一旦乱れ咲きに開き,次第の各弁がよじれて
 立ち上がり,全部立ち切って満開となるのが特徴です。
 
 
  六 肥後菊花壇
 
  毎年新規構築の竹木軸,よしず張,間口四、五間,奥行
 四、二間,軒高八、五尺,面積三、一五坪の上家に三十五
 株の肥後菊を秀島流により三列互の目植えにしたものです。
 
  花壇の説明
  肥後菊は熊本地方で発達した清楚にして雅致のあるもの
 で,花は一重で平弁と管弁があり,弁と弁との間に隙があ
 るのが特徴です。その仕立て方は秀島流によるもので,陰
 の木は心二本で十二本立とし,陽の木は心一本で十一本立
 に結ユイ立てたものです。
  花壇の植付けは三列で,その花までの高さは後植四、五
 尺内外,中植三尺内外,前植一、五尺内外と定められ,そ
 の植付順序は陰の木から植え始めたときは陽の木で終わり,
 陽の木から植え始めたときは陰の木で終わることとなって
 います。また各列とも平弁と管弁を交互に配し,色の配合
 も黄,白,紅の順序とするものです。新宿御苑では昭和五
 年からこの仕立方を行っています。
 
 
  七 懸崖ケンガイ作り花壇
 
  毎年新規構築の竹木軸,よしず張,間口六間,奥行七間,
 軒高九尺,面積七坪の上家に二十八鉢の山菊懸崖作りを陳
 列したものです。最大のものは長さ七、七尺,巾三、五尺
 あり,約三千輪の花をつけています。
 
  花壇の説明
  懸崖作りは,山野に自生する野菊が岩の間から垂れ下が
 って咲いている姿にヒントを得て作り始めたものですから,
 どこまでも野趣を失わぬように作る必要があります。
  懸崖作りに使用される菊は小菊で,分岐性の旺盛なもの
 を摘心によって仕立てるものです。この花壇に陳列してあ
 ります品種は,小菊中の一重咲の山菊ですが,このほかに
 丁子小菊や重弁のものも用いられます。
  この作り方には一定の方式はありませんが,大きいばか
 りがよいのではなく,その姿態も観賞するものですから,
 古木を利用した「古木作り」,岩石を活用した「岩石作り
 」といわれる作り方もあります。これらに用いる菊は小菊
 中でも一番小輪のものを用いますと風情がよく表現されま
 す。
 
 
  八 露地花壇 / 二箇所
 
  露地花壇は,日本庭園の芝生内に,大菊,中菊,小菊な
 ど各種の菊を盛花式に植付けたものです。
  露地花壇は,日本庭園内の二箇所に作られております。
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