11c 新宿御苑の菊
 
 〈小菊懸崖作り・大菊一本作り〉
 
 〈小菊懸崖作り〉
 
 小菊懸崖作りは大正4年(1915)に始まりました。その栽培は地植えと鉢作りの2通
りが行われています。
 地植えは,土手状に土を盛り上げて,菊を直接植え込み,篠竹で舟形状に組んだ支柱
に伏せ込んで懸崖に仕立てる方法で,仕立ての大きさから大作り,中作り,小作りに分
けています。大作りは大きいもので長さ2.2m,幅1mに達し,1株に3,000輪もの花をつ
けます。
 鉢作りでは,菊を棚に置き,地面に向けて弓なりに曲げた舟形の支柱に,枝を伏せて
懸崖に仕立てます。
 花壇には竹木軸ヨシズ張り二重屋根の上家を設け,野の菊が崖から垂れ下がって咲い
ているように,優雅でかつ野趣のある風情になるように配置します。御苑の花壇は,こ
の菊と上家の総合美にその特色の一つがあります。
 △菊の特徴
 菊は小菊で一重咲きの野生種と園芸種を主に用います。いずれの菊も分枝力に富み,
枝が硬すぎず,花首の短いものが適しています。また枝の伸長性の大きい順から大作り
用,中作り用,小作り用と鉢作り状に分けています。花色は黄・白・紅系で色彩の鮮明
なものが選ばれます。また,枝の伸長性は年々退化しますので,常に交配育種によって
新品種を作り出しています。
 △栽培
 前年の11月下旬,親木圃場の底無鉢から冬至芽を採ります。大作り用50本,中作り,
小作りと鉢作り用150本の合計200本を鉢上げし,冬の間はガラス室のフレーム内で管理
します。
 2月に入って大作り用の苗に1回目の摘心を行います。3月中旬,5寸鉢から7寸鉢
へ植え替えます。このとき,懸崖の形態を想定して,苗を約60度の角度に植え込みます。
 4月中旬,ガラス室から屋外へ出して外の環境に馴らします。6月上旬,定植場に木
枠を組み,土手状に培養土を盛り上げ,1尺(30p)竹カゴを埋け,これに菊を定植し
ます。中作りと小作りも同様の方法により定植します。
 一方,鉢作りは7月下旬に定植を行います。地植えと同じ定植場に棚を設け,8寸(
24p)鉢に植え替えた菊をこの棚に載せて栽培します。
 定植数は,大作り7,中作り16,小作り18,鉢作り24の合計65株です。
 土手に植え込んだ菊が活着してから,結立のための支柱を組みます。支柱は上から見
た形態が和船に似ているところから「舟形」と呼んでいます。この舟形に枝を屈折,誘
引して伏せ込みます。
 その後,1ケ月ごとに摘心と伏せ込みを繰り返し,舟形上に枝が均一に広がるように
結立ててゆきます。
 9月上旬,最終摘心に入ります。開花時期を揃えるために,菊の肩部,中間部,先端
部の順に3回に分けて摘心します。
 10月下旬,展示の1週間前,菊をカゴごと化粧鉢に植え替えて,ヨシズで囲い,植え
痛みの回復を図ります。
 △花壇
 菊を展示する上家は間口6間(10.8m),奥行1間1尺(2.1m),軒高8尺5寸(
2.55m),広さは6.9坪(22.7u)です。
 竹木軸ヨシズ張り二重屋根の上家は御苑独自のもので,青竹を用いるため毎年新しく
建て替えます。また,その技術は永く職人によって守られています。
 花壇の床に,大小,長短の古木の花台を立て,28鉢の菊を載せます。菊は後列の大作
りを基準に,中間部に中作りを,前部に小作りと鉢作りを,菊の大小,形態,花色など
を調和するように配置します。

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