1101　新宿御苑の菊（続き）
　
　　　　　　　　　　　　　　新宿御苑の菊
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　参考「新宿御苑に於ける和菊の伝統的栽培
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　法写真図説」東京農業大学発行
　
　〈大菊一本作り〉
　
　大菊一本作りは，厚物種と一文字菊，細管の各一本作りに分かれています。厚物種は
「大菊（厚物）手綱植花壇」を，一文字菊・細管は「一文字・細管菊（混植）手綱植花
壇」を形成しています。
　厚物種は明治17年（1884）頃，一文字菊は明治39年（1906），細管は明治42年（1909
）からそれぞれ花壇として作り始めました。このうち一文字菊と細管は大正14年（1925
）から混植にして一つの花壇となっています。
　両花壇とも，菊の配列が駒の手綱模様に似ているところから「手綱植」と呼称され，
雄大な規模のうちに美しさを表現しています。
　△菊の特徴
　厚物種のうち，厚物は丸味をもった平弁が花心を包むように重なり合い，鱗状にこん
もりと盛り上がっているもの，厚物走り付は，管弁又は平弁の長い走り弁が勢いよく出
ているものを用います。
　一文字菊は別名「広熨斗ﾋﾛﾉｼ」，又は「御紋章菊」とも呼ばれています。花弁は幅広
で長く，弁と弁の間に隙間ないものが良く，弁数は15〜18です。
　細管は一般の管物とは異なり，玉巻性ではなく，御苑で作出した直線状で細く長く雄
大な花容をもつ品種を用いています。
　いずれも菊の伸長性に富み，開花期が揃うことを条件としています。
　△栽培
　前年の12月中旬，根株を霜除苗床に取り入れ，冬期中は充分に保護管理します。
　４月下旬，ガラス室内の挿芽床に穂を挿します。３週間後，３寸鉢に鉢上げし，同じ
ガラス室内で管理します。活着後，苗を屋外に出し，生育に応じて支柱を立てます。一
本作りとするために長く真っ直ぐに生育させます。
　一文字菊は花が痛み易いので，摘心して２本とし，１本を予備枝とします。
　鉢に根が廻った頃，５寸鉢に植え替えます。７月中旬，７寸鉢（竹カゴ）に約1,400本
を定植します。この数は花壇に用いる菊の2.2倍です。８月下旬，菊をガラス室内に取り
入れ，10月下旬までここで栽培します。ガラス室は風害を避け，また病害虫の防除や光
線，温度の調節がし易いです。さらに露地栽培に比べて葉及び花色が鮮麗になります。
10月上旬，２m近くに伸びた菊の茎をくの字状に曲げて下げ，栽培管理をし易くします。
10月中旬，最終摘蕾をして一茎一花とします。
　△手綱植
　植付は，両花壇とも１列１品種の11本植え（本作ﾎﾝｻｸ）を基本型とし，黄，白，紅の
花色の順に，斜め56度に植え込んで手綱模様とします。
　斜めの配列から生じる花壇両端の端数列（半作ﾊﾝｻｸ）は，各５列で１，３，５，７，
９本植えとなります。
　厚物種の植付は，花壇の向かって左奥の１列目１本の黄色から始める３，５，７，９
本の順に植え込みます。
　６列目から35列目までが11本植えの本作で，36列目から半作に入り，40列目の１本の
黄色で終わります。
　花壇には40品種380株の菊を用い，後列135�p，前列99�pの高さで7.2度の勾配に仕立て
ます。
　一文字菊，細管の植付は，向かって右奥より一文字菊の１本の黄色に始まり，細管と
交互に植え，左手前の紅色の一文字菊に終わります。本作は17列で厚物種と同じ11本植
えです。
　花壇には一文字菊14品種118株，細管13品種119株の計237株を用い，後列126�p，前列
90�pで7.5度の勾配に仕立てます。
　菊の配置と花壇前面に向けての勾配は，ミリ単位の正確さが要求されます。
　△花壇
　厚物種の花壇は面積16.5坪（54.4�u），上家は間口８間（14.4m），奥行２間１尺（
3.78m），軒高９尺４寸（2.85m）です。上家の三方の壁はヨシズ張り襖戸で，屋根はロ
ウ引きした和紙の障子戸です。花壇の床上を21�p厚に盛り，縁は斜面状に固めます。
　一文字菊，細管の花壇は面積9.7坪（32�u），上家は間口５間（8.9m），奥行２間（
3.6m），軒高８尺６寸（2.6m）です。壁は紙張り襖戸，屋根は厚物種と同じ障子戸で二
重屋根になっています。