11b 新宿御苑の菊
〈中菊篠作り・肥後菊〉
〈中菊篠作り〉
中菊篠作りは,花壇に32本の菊を植え込み,各鉢ごとに27本の支柱を立て,すべての
枝を結立てます。
この結立てた状態が「しのつく雨のごとく数多く立っている」ことから篠作りと呼ば
れています。
御苑では明治11年から作られています。 篠作りは,根分けによって育てた苗を土中
に埋け込んだ竹カゴの鉢に定植し,6ケ月経過後,蕾がふくらみ花弁が見え始めた頃,
鉢ごと掘り上げ,展示花壇に植え込みます。
菊は江戸菊を用い,花弁の変化と豊かな色彩による花壇構成が中菊篠作りの特徴の一
つとなっています。
△菊の特徴
江戸菊は正菊又は狂菊と呼ばれ,管弁,匙弁,平弁の3種が一つの花に備わり,開花
に従いこれらの花弁が変化することが最大の特徴です。
花容の変化から追抱,褄折抱,丸抱,自然抱,乱抱,露心抱,管抱の7種類に分けら
れています。
菊は発育が旺盛で,節間が良く伸び,分枝力に富んだ種類が選ばれ,株の伸びから後
植用,中植用,前植用の3種類に分けられます。
△栽培
前年の12月中旬,親木圃場から移植した親株を苗床で越冬,保護し,吸枝を4月上旬
に根分け苗床に移し,1〜2回の摘心をします。
6月中旬,定植場に直径1尺2寸(36p)の竹カゴを63個埋け込み,培養土を入れて
苗を1鉢に3〜4本植えます。培養土は池土6,腐葉土4,川砂2の比率で積み重ね,
2回切り返したものを用います。
活着後,長さ195pの支柱を1鉢に14本立て,分枝をイグサによって伏せ込みます。そ
の後,立ち上がった枝は摘芽を加えながら上へ伸ばします。
特にこの頃から肥培管理に努め,茎の伸長を促進します。また,薬剤散布を継続し,
病虫害の発生を防ぎます。
9月下旬,蕾の肥大に応じて摘蕾し,10月上旬には1茎に3個を残します。
10月中旬,定植場から32鉢を選り出し,竹カゴごと掘り上げ展示花壇へ移植します。
△本結立
後植11鉢,中鉢10鉢,前鉢11鉢を3列の「互の目」に植え込みます。配色は,後植と
前植は左から黄,白,紅,中植は左から紅,黄,白の順に並べます。
本結立は1鉢ごとに黒塗りの支柱に替え,列ごとに定められた高さに枝を調整し,27
輪の花に高低差をつけて仕立てます。
短期間に結立てるために,作業は5〜6人が同時に行います。1人1日平均2株を結
立て,3〜4日で作業を完了します。
△花壇
面積は14坪(46.2u),上家は間口7間(12.6m),奥行2間(3.6m),軒高9尺(
2.7m)です。上家の三方は杉板張りの襖戸で,屋根にはロウ引きした和紙の障子を用い
ています。
花壇の床土は21p厚に盛られ,縁は斜面状に固めてあります。ここに列間115p,株間
113p,仕立の高さ後植5尺(150p),中植4尺1寸5分(124.5p),前植3尺3寸(
99p)の3段につくります。
前植と後植の高低差は51pで,13度の勾配があり,ほど良い視角が得られます。
〈肥後菊〉
肥後菊は,九州熊本地方で発達し,200年余の歴史をもつ秀島流によって栽培法や花壇
作りが厳格に定められています。
新宿御苑では,この秀島流に基づいて御苑の花壇に調和するように仕立て上げていま
す。
肥後菊は,第1回目の摘心によって伸びた2本の分枝に「又寄せ」を行い,2本の枝
があたかも1本に見えるように密着させ,上部は各花を結んだ線がいずれも正三角形に
なるように配置します。
このように,結立てた菊を天位(後菊),地位(前菊),人位(中菊)の3列に「互
の目」状に植え付けます。
△菊の特徴
後菊は大輪,中輪で草丈の伸びる品種を用い,前菊は小輪を用いています。花弁は単
弁で弁の間に間隙を有します。平弁,管弁,匙弁の3系統があります。
△栽培
12月中旬,親木圃場から親株を霜除け苗床に移植し,越冬させます。
4月中旬,伸びた苗を根分けて,根分け苗床に移し肥培します。この間,後菊,中菊
は定められた日に摘心します。前菊は,5月上旬に挿芽を行い,5月下旬頃3寸鉢に移
植します。
後菊は5月上旬,5寸鉢に鉢上げし,1本の支柱を立てます。摘心後分枝した2本の
枝をイグサで結び寄せ,2〜3回の操作の後,枝同士を正面に寄せて密着させます。こ
れを「又寄せ」と呼び,正面性を重視する肥後菊作りの特徴の一つです。
7月中旬,7寸の竹カゴに定植した菊を仕立場に移し,10月下旬まで栽培します。こ
の間,菊が生長するに従い4回の結立と3回の摘心を行います。また茎の肥大に応じて
イグサの結び直しを行います。根分けから本結立が完了するまでに,1鉢の結立回数は
延べ120〜130回に及びます。
10月上旬,広がる枝を吊り込み,整枝して本結立に用いる枝を決めます。
△本結立
10月中旬,展示花壇に用いる菊を選び本結立を行います。本結立で支柱は目立たない
ように黒塗りのものに替えます。配列の順序に従い,「陰の木」は中心が2輪の12輪付
き,「陽の木」は中心1輪の11輪付きとします。
花配りは仁・義・禮・知・信にたとえた五花に添花を加えた「五行作り」とし,各枝
に黒塗りの細い針金を取り付けて花形を整えます。
△花壇
上屋は竹木軸,ヨシズ張りで毎年新しく建て替えます。間口4.5間(8.1m),奥行4.2
尺(1.26m),軒高8.5尺(2.55m),面積3.15坪(10.2u)で,ここに杉丸太で組んだ花
壇縁を設け,横幅25尺2寸(7.56m),奥行2尺5寸(0.75m)の花壇をつくります。
後菊(4尺5寸/135p)12株,中菊(3尺/90p)11株,前菊(1尺5寸/45p)12
株を3列の「互の目」に植え,陰陽,平・管,黄・白・紅各色を交互に配置した植え付
けます。
最後に花壇全面に黒土を敷き,コケを散らします。清楚な菊と青竹やヨシズが一体と
なり,落ち着きと調和が採れた肥後菊花壇を構成します。
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