1101b 新宿御苑の菊(続き)
 
 〈育種・歴史〉
 
 〈育種〉
 
 △品種の改良
 菊は栄養繁殖を繰り返して品種の特性を維持していますが,次第にその草勢は弱まり
ます。
 御苑では,同一の品種を花壇に使用する年数は4〜6年です。御苑には多くの作型が
ありますので,毎年菊の品種改良を行って,それぞれの作りに合う性質の菊を作り出し
ています。
 最も古い菊の交配記録は明治26年(1893)の交配台帳に残っています。新品種の命名
は明治43年(1910)まで,宮内省の歌所で花容に相応しいものを与えていましたが,そ
れ以後現在までは命名せず系統番号を付けて台帳に記録しています。
 現在の菊の交配は,主に虫媒と人工交配とを交配室で行い,小菊のみ圃場での自然交
雑によっています。
 翌春,交配によって得た種子から実生苗を育て,圃場で栽培します。11月上旬,開花
した菊の中から良花を選択します。その後2ヶ年に亘って試作を行い,伸長性や花容な
どを見極め,4年目に初めて本栽培に入ります。
 各作型の品種選択に共通する基準は,まず菊花公開期間の11月上旬から中旬にかけて
見頃となるもので,生育が旺盛で病気に強いこと,葉柄が短く葉が垂れ下がらないこと,
そして花弁に光沢があることなどが挙げられます。また花色は,黄,白,紅を基調とし
ます。
 第二次世界大戦前は交配が盛んに行われ,昭和9年(1934)には実生によって得られ
た13,572本の菊から146本を新品種として登録しました。昭和54年(1979)は2,683本の
実生苗から95本を台帳に登録しました。採用率は昭和9年が1%,昭和54年が3.5%でし
た。
 △品種の保存
 御苑が保存している菊の最も古い品種は,明治43年(1910)に作出した「志賀」です。
しかし,一般的には同じ品種を長い年月維持することは難しく,従って御苑でも現存す
る品種はごく少ないです。
 現在,花壇に使われている菊は昭和13年(1938)に作出されたものが一番古く,その
中心は昭和55年(1980)以降のものとなっています。
 品種保存のための栽培は,親木圃場と苗床を中心に行われます。12月上旬,作業は親
株を親木圃場の底無鉢から掘り上げることから始めます。冬の厳しい寒さから守るため,
霜除けした苗床に根株を植え込みます。冬を越した根株は4月中旬に根分け床に移植し,
5月末までの1ケ月半,健全な苗に育てます。6月上旬,苗を親木圃場の底無鉢に定植
します。以後,多くの丈夫な吸枝が発生するよう,12月末までの6ケ月間栽培管理を継
続します。毎年このような作業を繰り返すことによって,品種の維持管理が行われてい
ます。
 このように御苑では,親株として優れた形質を持った菊を系統保存していますが,毎
年枯死と廃棄によって全体の3〜5%の品種が減少します。しかし,交配によって得ら
れた新品種の増加によって全体のバランスが保たれています。
 皇室の観菊会としての菊の栽培が隆盛であった昭和4年(1929)は約1,300品種の菊が
保存され,戦時下の昭和19年(1944)は1,267品種でした。しかし,敗戦直後の昭和22年
(1947)には食料生産が優先され,遂に411品種に減少しました。
 その後,担当者の努力によって暫時品種数が増加し,昭和60年現在約800品種の菊を保
存しています。
 
 〈新宿御苑の菊の品種と保存数〉
 
 大菊厚物種:80 巻絹,桐壷,陵王,松風,みちのく山,志賀,鷺,綾瀬の月,天鼓,
       不二見,清霜,春栄,暁天,うすくれない,誰ケ袖,朱鳥,葵の上,花
       筺など
 一文字菊 :50 京の雨,黄雲,佐保川,春の波,陣座など
 大菊細管種:50 白妙,折鈴,北の翁,月波,十六夜,清滝川,沖津波,初紅葉,蜻
       蛉羽,福草など
 中菊(江戸菊):100 梨花の雪,湧金,長寿楽,小倉山,名取川,若朽葉,雪の峰,
       紐鏡,初瀬川,紅葉渓,真心,朱総など
 伊勢菊  :50 伊勢錦など
 嵯峨菊  :65 嵯峨の里,よこぶえなど
 丁子菊  :60 ユキフリ,桟カケハシ,すだれ,彩,凩コガラシ,功,泉,塗,碑,諌,
              等,筧,栞など
 肥後菊  :110 秋の錦,篝カガリ火,二十五弦,宝珠の光,萩の曙など
 小菊   :70 須賀川野菊など
 その他  :170
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