04 皇居の植物(抄)その3
 
             皇居の植物(抄)その3
 
                        参考:保育社発行「皇居の植物」
 
 
[2]草本と低木
 
△吹上御苑
 江戸時代から庭園として維持・管理されてきた吹上御苑も,昭和に至って大きく変化
しました。即ち,昭和の初期からゴルフ場として利用されてきた広芝ヒロシバは,同12年の
ゴルフの中止に伴いゴルフ場の手入れも止めたので,翌13年にはカワラナデシコ・ホタ
ルブクロなどの野草が伸びてきました。更に同14・15年頃から吹上御苑全域に亘り,庭
園としての一般的な管理も中止しました。以来,既に栽植されていた木本・草本と共に
野生種が著しく繁殖して,現在は武蔵野の自然の様相を呈しています。広芝の落葉広葉
樹の林床には,アズマネザサ・トヨオカザサ・アオキなどの群落もあり,各々草本層や
低木層の優占種となっている処があります。
 
 吹上御苑には昭和18〜21年頃に,ミズニラ・クロモ・ウシクサ・ヤマアワ・タツノヒ
ゲ・カモノハシ・ミノボロ・ヌマガヤ・ヌメリグサ・オニスゲ・クロカワズスゲ・セン
ダイスゲ・ヤガミスゲ・アゼガヤツリ・イガガヤツリ・ヌマガヤツリ・ミズガヤツリ・
クログワイ・シカクイ・アゼテンツキ・メアゼテンツキ・ヤマイ・ヒンジガヤツリ・ウ
キヤガラ・イヌホタルイ・ホタルイ・カンガレイ・サンカクイ・ホシクサ・ミズアオイ
・ヤマジノホトトギス・タマガワホトトギス・ヤナギヌカボ・ヒロハカワラサイコ・コ
ミカンソウ・ミゾコウジュ・ヤマタツナミソウなど,現在の吹上御苑には殆ど見られな
い植物が生育していたことは興味深い。この中で水辺に生育する草本が数多く絶滅して
いるのは,当時,大池が吹上御苑の防空壕新設工事によって水脈が断たれて乾いたこと,
更に昭和36年,池底にアスファルトを敷いて水を満たしたこと,現在水鳥や魚などが生
息していること,滝見の池・白鳥堀(弁天堀)とその周辺の植生が変化したことなどが
原因と思われます。
 
△濠の植物
 徳川氏の入城後は構築のため更に植生が破壊された江戸城ですが,それ以後に草本を
主とした野生種が広い範囲に亘ってよく生育している場所は,半蔵濠・桜田濠・二重橋
濠・牛ケ淵などの各斜面です。しかしそれらの濠には,現在水生植物が非常に少ない。
 各斜面の草は一年に3回刈られていますので,桜田濠斜面に割合に多いオニユリの群
落は,花を着けることが出来ません。
 茲に桜田濠斜面の主な植物を挙げ,其処に見られないものや,少ないものなどを他の
濠の各斜面について記しますと,次のとおりです。
 
 桜田濠斜面 トラノオシダ・コバノヒノキシダ・ホシダ・オニヤブソテツ・ヤブソテ
ツ・イヌシダ・イタチシダ・ベニシダ・ノキシノブ・シケシダ・コウヤワラビ・タチシ
ノブ・アイアスカイノデ・イノモトソウ・ワラビ・ハリガネワラビ・ミドリヒメワラビ
・ヒメシダ・チョウセンガリヤス・カラスムギ(大群落)・ギョウギシバ・オガルカヤ
・メガルカヤ・シバスゲ・シラスゲ・ヤワラスゲ・ケスゲ・ヌカボシソウ・ヤブカンゾ
ウ・ノカンゾウ・オニユリ・ヒガンバナ(大群落)・シロバナマンジュシャゲ(栽植品
)・カラムシ・ナンバンカラムシ(大群落)・カワラナデシコ・ヒメウズ・キケマン・
ダイコン・カラシナ・クサボケ・ナワシロイチゴ・ネコハギ・ミヤコグサ・カスマグサ
・ナンテンハギ・ゲンノショウコ・カタバミ・ヒトツバハギ・タカトウダイ・イヌツル
ウメモドキ・マユミ・ヤブガラシ・オヤブジラミ・ツボクサ・フウセンカズラ・コナス
ビ・オオバイボタ・テイカカズラ・スズサイコ・コバノカモメヅル・コカモメヅル・ヒ
ルガオ・コヒルガオ・キュウリグサ・アキノタムラソウ・イヌコウジュ・オドリコソウ
・カキドオシ・キランソウ・タツナミソウ・トウバナ・ナギナタコウジュ・ヤマハッカ
・ヒヨドリジョウゴ・クコ・キツネノマゴ・ヨツバムグラ・ヤエムグラ・ヒメヨツバム
グラ・アカネ・ヘクソカズラ・スイカズラ・ケナシニワトコ・スズメウリ・キカラスウ
リ・アマチャヅル・ヤマホタルブクロ・ホタルブクロ・ツリガネニンジン・ヒロハタン
ポポ・カントウタンポポ・バラモンギクなど
 
 半蔵濠斜面 イヌドクサ・ヘビノネゴザ・イワヒメワラビ・ナライシダ・ホソバシケ
シダ・アヤメ・ビロードスゲ・キツネノカミソリ(大群落)・ヤマエンゴサク・ノブド
ウ・ケタチツボスミレ・コスミレ・スミレ・アカネスミレ・ノジスミレ・シロバナキツ
ネノマゴ・シロバナツリガネニンジン・ヌマトラノオなど
 
 二重橋濠斜面 カニクサ・ホシダ・カジイチゴ・トウダイグサ・ツルウメモドキ・ノ
チドメ・オオチドメ・クルマバナ・ホトケノザ・オオバコ・カラスウリなど
 
 次の各濠については,主として水生植物と水辺の主な植物とを記述します。
 
 上道潅濠 昭和61年にこの濠の西側斜面では,アカガシ・スダジイなどの高木の林床
にシュロ・イチイガシ(稀)・イヌビワ・ヤブツバキ・ヤツデ・アオキ・ケナシニワト
コ・サンゴジュなどの低木が生育していました。水生植物にはサンショウモ・ミクリ・
イトモ・エビモ・ヨシ・ウキクサ・アオウキクサ・ヒナウキクサ・ヒメウキクサ・ミゾ
ソバ・ハス・オニビシ・ヒメビシなどがあります。
 
 中道潅濠 東側斜面のイロハモミジの林床では,アオキが群生して低木層の優占種に
なっています。エビモ・ヨシ・ヒメガマ・サヤヌカグサ・フトイ・ウキヤガラ・ショウ
ブ・ヒナウキクサ・キショウブ・ミゾソバ・ハス(大群落)など。この濠の東側斜面の
下にある下道潅濠昭和62年浚渫シュンセツ泥土埋立地には,サヤヌカグサ・カンエンガヤツリ
・アゼナルコスゲ・タチヤナギ・マルバヤナギ・サデクサ・コシロネなどが生育してい
ます。
 
 下道潅濠 ヨシ(大群落)・ヒメガマ・クサヨシ・サヤヌカグサ・フトイ・カンエン
ガヤツリ・オニスゲ・ショウブ・アオウキクサ・ヒナウキクサ・オノエヤナギ・ミゾソ
バ・ハス・セリ・ヒメビシ・ヒシなど
 
 蓮池 ミクリ・エビモ・ヒメガマ・キシュウスズメノヒエ・ヨシ・フトイ・ショウブ
・ウキクサ・ヒナウキクサ・ヒメウキクサ・ミゾソバ・ハス(大群落)・ヒシ・ヒメビ
シなど
 
 乾イヌイ濠 ヒナウキクサ。昭和50年頃にサンショウモの群落が見られましたが,現在は
水生植物が非常に少ない。
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